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第63話

5台ほど大きな黒い車が倉庫兼店舗の前に停まっていた。 隼人はそのうちの一台の後部座席に座らされた。横には先ほどの先頭にいた男が座る。鋭い目をした筋肉質の痩せた男だ。 彼は、ポケットから白いハンカチを取り出し、隼人に渡してきた。 「血が出てるな。鼻の骨、折れたか?」 「いえ」と隼人は声を出そうとした。口の中も切れている。血で喉が絡み、音が出ない。 恐怖と緊張のせいだろう、唾液がでていないので、飲み込むこともできない。 「ひどくやられたな。これから、知り合いの病院に行く。検査してもらう」そして男は名乗った。「俺は鶴見だ。片倉竜三郎様のところで働いている」 圭が、父親に隼人を助けるよう依頼したのか。 鶴見は質問してきた。その質問は意外だった。 「ところで、お前は、誰だ?名前は?」 知らないのか、と不思議になった。圭は、何の説明もせずに、助けるよう言ったのか。 返事をしようと声を出したら咳き込んだ。そのまま、血のついた痰が鶴見のハンカチにつく。 ガラガラ声で答えた。「大内隼人です」 「大内か」鶴見は自分をずっとジロジロみてくる。「どこかで見た顔だな」と言われた。「前に会ったことあるか?」 覚えがないのでそう告げた。「いえ」 「そうか。そうだな。確かに、会ってないな。よく似てる奴を知ってたんだ。狭霧が、昔付き合ってた奴だ。背が高くて、どっかの上場企業に勤めてる会社員かなんかだった。珍しく堅気のまともな男といると思っていたら、すぐに別れて、今度は水商売の女と付き合ってたな」鶴見は独り言のようにそう言った。 それから、質問を続けてくる。 「で、お前は、狭霧とはどういう関係だ?俺は、片倉様に依頼されて、狭霧の人間関係はほぼ把握している。だが、お前のことは聞いたことはない。遊びや仕事の仲間じゃないな」 「圭は、狭霧は、高校の後輩です」と答えた。 「高校の?」 「はい」 「高校の時の、なんだ?まさか、狭霧の初体験の相手とかいいださないでくれよ」鶴見が自分の冗談に薄く笑っている。 「最近、彼に仕事を依頼したんです」と隼人は説明した。「会うのは、久しぶりです」 「依頼主か」と鶴見は言った。「いくら払ってる?」 隼人は、正直に金額を答えた。 鶴見は、しばらく黙っていた。 それから、おもむろに口を開いた。「俺は何年も狭霧と付き合いがあるが、あいつが、片倉様になにかを頼んできたのは、それどころか、自分から連絡をとってきたのは、今回が初めてだ。お前に利用価値があるか、大金か、よっぽどの背景があるんだろうとは思ったがな。だが、そんな金額だとすると、金じゃないな。たかが、高校の先輩から依頼された仕事ってだけで、片倉様に助けを求めてきたのか。どんな価値が、お前にあるんだ?」 隼人は返事ができなかった。鶴見も特に回答を求めているわけではなさそうだった。 「まあ、いいさ。片倉様は、大喜びだ。狭霧が自分を頼ってくるのがうれしくてしょうがないらしい。すぐに、お前を助けるよう命令された。狭霧の望みの10倍をやってやるつもりだ」 鶴見は独り言のようにそう言った。 隼人は質問する。「塚田はどうなりましたか?」 「塚田は逃げた。組の者全員置いて、逃げ足の速い奴だ。捕まえたいか?殴られた仕返しでもするか?」 隼人は首を横に振った。今は何も考えられなかった。

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