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第69話
報告書を書いている最中に、もともと圭に仕事を依頼してきた間島探偵事務所から連絡があった。明日、夕方に事務所に来て欲しいというのだった。
突然だったがそれもそうかと思った。今回のことで、依頼主の隼人が負傷するという事態になったのだ。
間島には簡単な報告はあげていたが、詳細な説明を求められるのも当然のことだ。
電話口で間島は遠慮深く言う。
「突然で悪いね。大内警備の佐久間さんからどうしても話があるって言うんだ」
「かまいません。それと、今回の件の報告書もあらかたできているんで持っていきます」と圭は言った。「完全じゃないですけど」
「そうか。狭霧君、相変わらず仕事が早いね。その報告書のことも、明日話をしよう」と間島は言った。
どこか思わせぶりな口調だった。
圭が間島の事務所に到着すると、既に佐久間がいた。
圭は、今までも間島には報告を途中途中で出したはいたが、佐久間に会うのは久しぶりだった。
彼は、難しい顔をしながら間島と何やら話をしていた。
隼人はその場にはいなかった。圭は残念に思っている自分に気づいた。
勝手に会えると思っていたのだ。隼人の怪我の様子も知りたかった。
大丈夫なんだろうか。手を怪我していたけど仕事になったのだろうか。それに、あの手では、ご飯は作れないだろうな、包丁も、フライパンも持てない。
佐久間に隼人のことを聞きたい気持ちを抑えた。仕事の話をした後に、様子をうかがおう。
圭はファイルにとじた報告書を間島に渡した。かなり力を入れて書いたものだ。資料も十分つけている。隼人が翻訳してくれた英文もつけた。
間島は報告書のページをめくり、ざっと構成を眺めた。
「今週末には、完全版の報告ができます」と圭は間島に言った。
間島は全体をさらりと確認しただけで、報告書を佐久間に渡す。佐久間が読み始めると、間島は言った。
「報告書はこれ以上はいらないそうだ」と間島は言った。
驚いて聞き返した。「いらないって、何でですか?」
佐久間が報告書から顔をあげ、口を開く。「依頼主のNPO法人から、連絡があった。これ以上調べる必要もない。途中でもいいので今までのデータを全部NPO法人に渡したら、報告書も、関連するデータも破棄して欲しいということだ。費用は破棄が確認出来たら、全額振り込まれる」
圭は、言葉を失った。
どういうことだろうか。調査を中止するなんて。
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