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第72話

そして、その夜。 別な仕事から自宅に帰ってきた圭は、雨が降りはじめたのに気づいた。 マンションの大きな窓から見える街が、雨でぼんやりしている。じっと外を見るうちに、あの夜のことを思い出した。 情報屋の古本屋から帰ってきた後、隼人の部屋に行ったときも、雨が降っていた。 あの後、何度も何度も思い出して、自分の中で、隼人のあの言葉を繰り返したのだ。 雨を見ながら、圭は思った。隼人は、このまま、去っていく。 自分に連絡もせず、全部を終わりにする気だ。 佐久間が隼人に何と言ったかは知らないが、今の今まで圭に何も言わず知らん顔しているというのはどうかしている。 怪我がどうなったのか、NPO法人の件はそれでいいのか、塚田はどうなっているのか、なんでもいい。話をしに来るべきだ。 いや、それだけじゃない。 塚田にいきなり拉致されたせいでうやむやになってしまったけれど、あの夜、隼人は、確かに、自分に言ったのだ。 『覚えているのか』。あの声は、全てを示していた。あれも知らない顔をして、終わらせる気なのか。 そうはさせない。 圭は、身支度をすると家を出た。 後から考えると、どうかしていたのだと思う。前後を見失い、ただ、隼人が自分の手からするりと離れていくのが、許せなかった。頭の中は、それだけでいっぱいだった。

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