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第73話
圭は、隼人の家の前で待っていた。ここで待つのは久しぶりだ。
遅い時間に隼人が帰ってくる。手にはコンビニのビニール袋を持っていた。弁当を買ってきたようだ。
顔にも手にもはまだ絆創膏が貼られている。
彼は、圭の姿を認めた。
「圭」
驚いている顔だ。戸惑ってもいる。
「どうした?」と彼は聞いてきた。「なにか、あったのか?」
圭は首を横に振った。
家に入ると隼人は弁当を机の上に置き、スーツの上着を脱いでハンガーにかけた。
「飯は?今、うちには何もないんだ」と隼人は言った。手を示して、「まだ作れないから」
口調は普通になっていた。今までと一緒だ。何とも思っていないのか、戸惑いを隠しているのか、隼人の様子からは彼の内心はよくわからない。
「腹は減ってない」と圭は言った。「飯食ってて」
隼人はローテーブルの前に座るが、身体をかがめ胡坐をかくのが痛そうだった。
「怪我はどう?」と圭は聞いた。
「だいぶいい」と隼人は言った。
コンビニ弁当のふたを開け、圭に何の気兼ねもなくさくさく食べ始める。
「NPO法人の仕事、終わったって聞いた?」と圭は言った。
隼人はうなずく。「でも、終わったって言うか、佐久間さんが、まだ」と彼は言って言葉を濁した。
佐久間が塚田に落とし前をつけさせようとしていると隼人は知っているのだろう。
食事をしながら、「酒も、まだ、飲まないようにしてるんだが、お前、飲むか?」と隼人言った。「冷蔵庫にビールくらい残ってると思う」
圭は首を横に振った。
隼人は、圭が何をしに来たのか、といぶかっている表情を見せた。だが、質問はしてこなかった。
圭は立ち上がりキッチンに行きながら隼人に聞いた。
「食後にコーヒー、飲む?酒は無理だろうと思って、もってきた」
隼人はうなずいた。「ありがとう」
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