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第74話

ヤカンで湯を沸かしながら、圭は用意してきた個包装のドリップバッグのコーヒーを取り出した。隼人の家にあるマグカップとコップを並べセットする。 それから、ポケットから小さなビニール袋をひっぱりだした。 中には、ピンクのドラッグを砕いた粉が入っている。 関西の売人からもらった媚薬だ。改良されていると言っていたが、本当だろうか。 こんな薬が、効果を発揮するのだろうか。セックスしたくてたまらなくなるのだろうか。 圭は、コーヒーを淹れたカップを二つ運んだ。一つを隼人に差し出す。 「ベトナム産の珍しいコーヒーなんだ。ちょっと味が変わってるけど、濃く入れたから美味しいはず」 隼人はあらかた食事を終えていた。 マグカップを受け取り口をつける。 「少し甘いな」と彼は言った。「砂糖入れたのか?」 圭は媚薬の入っていない方のカップを飲む。甘さは薬のせいだろう。 「隼人?」 呼びかけると、彼は息を大きくついていた。 分かっているのにわざと質問した。「どうしたんだ?」 隼人の表情が、今まで見たことのないような色を見せていた。 部屋の中の空気が、重く、ドロリとしたものになる。 「隼人」圭はまた呼びかけた。 それから、言った。 「やりたいんだろ」 目をじっと覗き込む。 彼の前に両手を伸ばしてみせる。 「ほら。欲しいなら、とりに来いよ」

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