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第77話
いつの間に意識を飛ばしていたのだろうか。目が覚めると明け方だった。隼人は圭を抱き込み、目を閉じている。まだ眠っていた。眉間にしわを寄せ悪夢を見ているようだ。
圭は彼の腕から這い出した。
床に散らばる衣類を身に着ける。身体はベタベタでごわついていたが、かまわなかった。
荷物を手に取り、ドアを開け、外に出た。
空が白み始めている。まだ薄暗いのに、明るすぎる感じがした。
大通りを目指してしばらく歩いた。
隼人は、昨夜のことは覚えていない。
目が覚めたら何があったのか気づくだろうか。圭が薬を飲ませたことがわかるだろうか。
もし、わかったら。怒るよりもとまどう顔が目に浮かぶようだ。
そして、どうするんだろう。考えてみたが、途中でやめた。
多分、何もしては来ないだろう。
それに、隼人が自分に何か言ってくることを想像すること自体が、期待につながる気がしたのだ。
期待なんて、無駄だ。
だいたい、隼人は、圭への連絡を絶とうとしていたのだ。全て終わったこととしたのか。圭が突然訪ねてきても、自分からは何も言いだそうとはしなかった。何の用事もないということなのだ。
どうしていつもあんな風なんだろう。優しく優しく接する癖に、圭のことを置いて行ってしまう。
彼には、圭と関わる必要がないのだ。隼人には大事な仲間と彼の属する世界があって、圭のそれとは違う。隼人は自分の世界で充足している。
だから、隼人といると、圭が足りないもの、飢えているものが消え去り、充足するのだ。
そして、その後で、彼はいなくなる。
もう会わない。最初から、会ってはいけなかったのだ。
隼人に会えると思って、あの日ノコノコと間島探偵事務所に行った自分はなんて愚かだったんだろうか。
大通りで、流しのタクシーを拾った。
自宅へ戻る道を告げる。
走り出した車の窓ガラスに自分の顔が映っている。こわばっていて、いつもの自分ではないようだ。こんな表情はだめだ。わざと唇の端を持ち上げてみた。
口を動かして声に出して窓ガラスにうつる自分に告げた。
二度と会わない。
そして、そう誓うのはこれで二回目だということに気づいた。
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