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第80話
南川にしたら、大内と狭霧を取り持つ必要など全くないのだ。
今こうして辛そうにしている狭霧を甘やかし、大内はお前の言う通り大したことのないつまらない人間だ。さっさと忘れて、自分と楽しく過ごそうとでも言った方がよい。落ち込んでいる狭霧に優しくすれば、以前のような親密な関係を取り戻せる。
狭霧がこれほどまでに沈んでいなければ、彼の言葉を受けて口を閉じただろう。
だが、そうするには狭霧は深い淵にはまっていた。助け上げなければならないくらいに。
南川は言った。「自分をごまかすなよ。好きでしょうがない初恋の相手に再会できたんだから、大事にしたほうがいい。今度逃すと、一生後悔するぞ。大内に電話をかけ直して、会いたいというべきだ」
「やめろよ。そんな話聞いてたら、気持ち悪くて身体がムズムズする」
「大内と高校生の時なにがあったか知らないけど、もう高校生じゃないだろう。意地になったり、嫌いなふりをしたりするのはやめたほうがいい。率直にならないと相手には伝わらない。格好悪くてもなんでも、そのほうが欲しいものが手に入る。高校生には難しいだろうが、大人ならそれがわかって、実行できる」
「なにが大人だ」
圭は、また、炭酸水を飲んだ。
勢いよく飲んだせいで、むせた。咳き込みながら、南川に帰れと言ってきた。
俺が、本気で怒る前に、帰ってくれ、と。
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