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第83話

圭に、電話しても、何を言っても、無駄なのではないか。 話をして、謝るべきだ。心の奥底からそんな声がする。 だが、もう一方から別な考えがやってくる。圭は、二度と連絡をするなと言っている。彼は、自分と接触したくない。こちらから連絡するのは迷惑だ。 南川のこともある。圭は、南川に、隼人とのことを知られたくないはずだ。媚薬のせいとは言え、隼人にやすやすと身体を与えたのだ。 隼人が南川に何か言うのを避けたいのではないか。また、不用意な言葉を隼人が吐かないとは限らないのだから。 そんなことをグルグルと考え、連絡ができないでいる。 だが、とうとう、意を決して、圭に連絡しようと思った。 誰かが、自分に薬を飲ませ、自宅でセックスをしたのだ。 あの媚薬。 圭は、薬をもっていた。何かの拍子に自分もあれを飲んだのか。 まさか、圭が、自分に飲ませたのだろうか。 でも、どうして、そんなことを。 わからない。 仕返し、ということもあるのだろか。自分が媚薬を飲んだ圭を抱いて、黙っていたことへの。もしそうだとしたら、そんなことを仕返しにするなんて、圭はどうかしている。 そして、電話帳から圭を呼び出した。電話をかける。 だが、彼は出なかった。 その後、時間をおいて何度もかけたが、出ない。 さらには、電源がオフになってしまった。 どうしようかと思いながらの仕事は全く手がつかなかった。社員の話は上の空で、差し出される書類は頭の中には入ってこない。 自分でも、これは時間の無駄だ。それどころか業務の邪魔だ、と思い、休憩すると言って、外に出た。 頭を冷やしたくて、電車に乗って会社から離れた繁華街にむかった。 喧噪の中に立つと、行き交う人は皆自分のすべきことを熱心にしているように見える。 隼人はあてどなく歩いた。

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