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第84話
行き当たりばったり歩いていると、突然、「大内君」と背後から話かけられた。
振り返ると小柄な年配の女性がにこやかに立っている。
「白木先生」と隼人は返事をした。
「久しぶり。こんなところで会うなんて驚いたわ」
白木先生は、男子校のお母さんのような存在だった。懐かしさに隼人は思わず笑顔になった。
先生は元気そうだ。学校のいた時と同じで明るく背筋はまっすぐだった。
どちらともなく誘いあって、近くのカフェに入った。
話すことは多くあった。
白木先生は、隼人の通っていた学校を定年退職し、今は別な学校で嘱託の講師をしているという。先生は話し上手聞き上手で、お互いが知っている先生の話、生徒の話、とめどない話が心地よかった。
隼人は今の自分の仕事の話もした。悩みが多いことを誰かに素直に話せたのは初めてだった。
白木先生は、自分は経営のことはわからないけれど、と言って、ただ、静かに聞いてくれた。
それぞれのコーヒーがほとんどなくなるころ、白木先生が言った。
「そういえば、この前、あなたが狭霧君と一緒にいるところを見かけたような気がしたわ。センタービルの前で。遠くからだったから声をかけられなかったの。あれは、あなたたちだったの?」
狭霧の名前にどきりとした。
そして、記憶をたどる。
確かに、二人で街中にいた。一緒にドラッグの売人についての情報を探していたのだ。
古本屋に行くまでの、わずかな楽しい時間だった。
隼人はうなずいた。「そうだと思います」
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