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第88話

「そういえば」と鶴見はひとしきり苦情を述べた後、話を切り替えた。 「片倉様が、大内隼人という名前、どこかで、聞いたことがあると言っておられて、この前やっと思い出された」 鶴見は、黒いカバンに手をやり、中から封筒の束を差し出してきた。全部で10通くらいある。 「この手紙の送り主だ。ずいぶんと前に、お前のことを知りたいと言ってきた手紙だ」 封筒のあて先の住所は、片倉竜三郎の事務所。あて名は、片倉竜三郎様となっている。 この手書きの堂々とした伸びやかな字は、よく知っている。 封筒を裏返してみると、大内隼人の名前が書かれている。 圭は中身をとりだした。白い便せんに、丁寧な字がならんでいた。 内容は、自分は、狭霧圭と同じ高校の卒業生で、知り合いであること、狭霧圭が転校したと聞いたこと、連絡先を教えて欲しいこと、が書かれている。 「こんな手書きの手紙、今時珍しいだろう。片倉様は全部、目を通されたそうだ。だが、送り主は、お前につきまとっている異常者かストーカーかもしれないと思って、返事は一切されなかったそうだ」 圭は、他の封筒の中も読んだ。 どれも似たような内容だ。狭霧圭を探していること、連絡先知りたいこと。あるいは、自分が狭霧圭と連絡を取りたがっていることを、彼に伝えて欲しいというもの。どうしても、会って話をしたいというもの。 自分宛ての手紙も同封していた。 オーストラリアから休暇で帰ってきていること。圭が急に転校したと聞いて驚いている。できれば会いたい。

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