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第89話
圭は、封筒から出したすべての手紙を、机の上に無造作に放りだしだ。
封筒が一枚足元に落ちる。大内隼人の名前がこちらを向いている。拾い上げることはしなかった。
「それで?」と鶴見に聞く。
「この、大内隼人がお前に手紙を出していたことを、お前は知らないままだろう」
「だから?」
鶴見は答えなかった。彼は、机の上の手紙をきちんともとの封筒に戻していった。
かがんで足元に落ちた封筒も拾う。
そうしながら、鶴見自身も手紙を読んだ。「まるで、恋文だな」と鶴見は言った。
圭は顔をあげた。
「どこが、恋文なんだよ」
「どこがって、こんなに、お前に会いたいってことを、連綿とつづってるじゃないか」と鶴見は言った。「何通も、返事がないとわかっているのに。書かずにはいられなかったんだな」
手紙を手に鶴見が聞いてきた。
「この手紙は、どうする?」
「捨てたら?俺にはいらないものだ」
「そうか。確かに、大内隼人に会った今となっては、不要だな」と鶴見は言った。
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