89 / 93

第89話

圭は、封筒から出したすべての手紙を、机の上に無造作に放りだしだ。 封筒が一枚足元に落ちる。大内隼人の名前がこちらを向いている。拾い上げることはしなかった。 「それで?」と鶴見に聞く。 「この、大内隼人がお前に手紙を出していたことを、お前は知らないままだろう」 「だから?」 鶴見は答えなかった。彼は、机の上の手紙をきちんともとの封筒に戻していった。 かがんで足元に落ちた封筒も拾う。 そうしながら、鶴見自身も手紙を読んだ。「まるで、恋文だな」と鶴見は言った。 圭は顔をあげた。 「どこが、恋文なんだよ」 「どこがって、こんなに、お前に会いたいってことを、連綿とつづってるじゃないか」と鶴見は言った。「何通も、返事がないとわかっているのに。書かずにはいられなかったんだな」 手紙を手に鶴見が聞いてきた。 「この手紙は、どうする?」 「捨てたら?俺にはいらないものだ」 「そうか。確かに、大内隼人に会った今となっては、不要だな」と鶴見は言った。

ともだちにシェアしよう!