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第91話
急に玄関に現れた隼人の姿に、圭は心臓がひっくり返るかと思った。
隼人が説明する。「下で、鶴見さんが、鍵を開けてくれた」
あの野郎。勝手なことしやがって、と圭は思った。
「帰れよ。入ってくるな」
だが、隼人は引き下がらなかった。
彼は、招かれてもいないのに靴を脱いで、上がり込んできた。
「おい!帰れって言ってるだろ」
隼人は動かない。帰る気は全くないようだ。
押し出そうとは思わなかった。少しでも彼の身体に触れたら、その指先や掌から溶けてしまうのが怖かったから。
圭は、廊下で腕組みをし、隼人を睨みつけた。
「何の用だよ」乱暴に言う。
そう聞いた後で、質問なんかしてはダメだ、と思った。隼人と会話なんてしないんだ。
こいつとはもう二度と、二度と会わないんだから。
隼人は、深々と頭を下げてきた。
そして「すまなかった」と彼は言った。
「はあ?」
隼人は頭を下げたままだ。何の説明もない。
言葉を区切り、ゆっくりと圭は言った。「なにが、すまなかった、なんだよ」
「全部。何もかも」と隼人は言った。顔をあげるとまた謝罪の言葉を口にする。
「全部?」
怒りがふつふつと湧き上がってくる。なにが、全部、だ。結局何もあやまってないのと一緒じゃないか。
「帰れよ」
隼人は首を横に振った。
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