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第4話

「あ、夏目さん。ルームサービスあったから適当に色々頼んじゃいました」  部屋に戻ると同じようにバスローブ姿の春永がソファーに座っていて、メニュー片手ににこにこ顔で言ってきた。  髪の毛はぺったりと下りて、格好もバスローブで、どうにもプライベート感が強い春永が人懐こい笑顔を浮かべるせいで、初めて喋ってから一時間も経っていないとは思えない距離の縮まり方だ。  とりあえずサンキューと軽く礼を言って、しばらく部屋の中を歩き回ってから結局ソファーと適度な距離のあるベッドに座った。  いい部屋を取っただけあってラブホというよりかはただのホテルの部屋って感じだけど、今座ったベッドもでかいとはいえ一つしかなく、アメニティやら備え付けのあれこれがやっぱりラブホ感を主張していて、その中にバスローブでいるのはなかなか気まずい。  でも夕食の目途がついたからか春永は意気揚々と部屋の中を探検し始めて、そのたびバラの匂いが漂うのが本当に気まずい。その上足が長いせいでバスローブもちょっと短めだから、歩くたびに男にしてはスネ毛のない脚がちらちら見えるせいで思わず視線を逸らしてしまう自分が嫌だ。  そうやって気まずいながらになんとか時間を潰していると、意外と早くルームサービスで頼んだものが届いたらしい。取りに行った春永が嬉しそうに運んできたのは、メニューにあるものほとんど頼んじゃないかって量の料理。しっかり酒もついている。  そういうわけでひとまず仕事終わりの乾杯をしてだいぶ遅い夕飯を食べることにした。ラブホにしてはなかなかのラインナップで味も普通に美味しくて、盛り上がって酒も追加して飲んだから酔いもそれなり。  酔っ払った春永はより陽気になって、よく笑ってよく喋った。  本来だったら挨拶もするかどうかという間柄だと言うのに、こうやって知り合ってみれば正反対の性格だからこそ噛み合ったようで、なかなか楽しく夕飯を終えられた。 「ふぃー酔ったー」 「これ、外に置いとけばいいのか?」 「うん。あ、ちょっと待って」  食べ終わった後の容器をどうするのか、聞けば春永が子供っぽい口調で答えてくる。いつの間にか敬語は取れていて、ついでに呂律もあんまり回っていない。  そのくせふらふらとした足取りで部屋の中をうろついた春永は、どこからか見つけてきたメモ帳になにかを書いてトレイの上に載せてきた。見てみれば『あまやどり』というホテルの名前の入ったピンク色のメモに「ごちそうさまでした。おいしかったです!」なんて若干ぐでぐでの字とニコちゃんマークが描かれている。なんという気の遣い方だ。  ……ん? あまやどり?  そういえばここがなにかもわからず入ってきたせいでホテルの名前なんて見ていなかったけれど、そういう名前だったのか。ある意味とても俺たちにお似合いの店名だけど……なんだろう。聞き覚えがある気がするのは気のせいか。いやもちろん普通の言葉として、今の状態がまさに「雨宿り」だから聞いたことがあるのは当然なんだけど。 「んぅー気持ちよすぎて寝そう」  空になったメモ付きの食器を部屋の外に出し、戻ってくると春永がベッドにうつ伏せに寝転んでいた。満腹になって眠くなったのか、すでに声がだいぶ蕩けている。 「寝れば? 別にすることないし」  眠るには少し早い時間だけど、することもないし、すでに春永の奴半分寝ているようなものだ。  しかしスマホがないってだけでこれだけ時間を持て余してしまうんだから依存具合もなかなか深刻だと思う。 「ラブホなのにすることないってすごいね」  こういうところって普通のテレビも見られたんだっけ、とテレビをつけようとした時、ベッドに寝転がったままのぽやぽや声が聞こえてきた。酔っ払ってんのと寝ぼけてんのでさっきまでの快活さはどこかへ飛んでしまっている。むしろ寝言なんじゃないかというくらい口調が危うい。 「まあ、することするためのとこだからな。俺らは……」 「……男同士って気持ちいいってホントかな」  そんな口調だからか、続いた言葉に驚きはしたものの「なんだって?」と普通に聞き返せた。そのせいか、春永のとんでも発言が続く。 「俺、一回だけ男同士でしたことあるんだよね」  酔っ払ってんなこいつ、と思った。  そうじゃなきゃ、そんなとんでもない暴露、違う部署とはいえ今日初めて話すような同僚にしないだろう。……まあそれを言ったらそもそも同僚とラブホに入ったりはしないけど。

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