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第5話

「大学の時に、色んなサークルで合同で飲んだ時に、べろべろに酔っ払ってさー。で、その時に王様ゲームで男同士でベロチューして、その後ノリでホテル行ってしたんだけど、ていうかしたらしいんだけど、俺全っ然覚えてなくて」 「……は?」  あははと軽い笑い声を立てる春永のぼやけた思い出話を聞いて、待てよと声を上げたのはさっきまで冷静だったはずの俺。  だってその話、知ってる。  我が事として知ってる。  違う学校の奴らだけど友達の友達のサークルって感じで集まって、もはやなんだかわからない集団で飲んだ時の、適当な王様ゲームと、酔いに任せた知らない男とのディープキス。それで盛り上がって、二人で抜け出して目に入ったラブホに行って、完全にノリでセックスして、そのくせアホかってほど燃えて。  そしてホテルに入った時に小雨が降っていて、ちょうどここでいいじゃんって笑った記憶。 「……あれ、お前だったのか」 「うあ?」 「つーか、そうだ。名前聞いてなかったな」  名前も知らず、顔さえもちゃんと見ていなかった相手とちゃっかり気持ちよくなって、だけど一夜のことだと今まですっかり忘れていた。若い時のよくあるアヤマチとして。  でも今すっかり思い出した。そしてさっきまで感じてたデジャヴみたいな記憶の理由もわかった。気のせいじゃない。全部昔の記憶だ。 「春永、その相手俺」 「んん?」 「一回の男同士のセックスの相手」 「へ? なつめさん? なんで?」 「なんでっつわれても、その時その場所にいたから? むしろその時の相手が今偶然同じ会社にいるって方が不思議か」  春永が寝転がっているベッドに上がって、ころりと転がって仰向けになった春永を見下ろしてみる。  この目線、確かに覚えがある。  あの時も、こうやって酔って潤んだ目で俺を見上げていた。そして王様ゲームの時より濃厚なキスをして、服を脱がしてそのまま抱いた。酔っ払っていたとはいえよくもまあ男同士で大した抵抗もなくヤったもんだ。そう思えば体の相性は良かったんだろう。 「ちなみにそのホテルの名前が『あまやどり』」 「ん? あれ、あまやどりって……」 「そ、ここの名前と同じ。系列店じゃねーの?」  偶然会った春永と偶然入ったホテルの名前が同じだなんて、変な縁を感じるしかないところだ。  そう思ったら、俄然気分が盛り上がってきた。 「ちなみにお前が一番感じてたのはバックからした時。女みたいに喘いでた」  だからあの背中にも覚えがあったんだ。シャワーを浴びている背中を見て変な気持ちになったのも、きっとそのせい。 「うあー、やめてそういうの。なんか思い出しちゃいそう」 「思い出せよ。俺一人覚えてんの不公平だろ」  バスローブの紐を解き、前をはだけてやったら春永がぱちくりとまばたきをした。 「え、なに、夏目さ……ん」 「……まだ思い出さないか?」  喋り続ける口を塞ぐように深いキスを与えてやれば、春永がそのまま黙った。だからもう一度身を屈めてキスをすると、「バカじゃん」と小さく呟かれる。 「なにがバカだって?」 「~~~~思い出したっ。三回目まで全部!」 「そりゃ良かった」  本人的にあまり詳細に思い出したくないことだったのか、眉を寄せて合わせた唇を尖らせてくる。回数まで思い出したってことは、しっかりあの夜のあれやこれやも思い出してるってことだ。さっきまで細かいことは全部忘れていた奴にしては、なかなかの思い出しっぷりだ。それほどまでに俺のキスが良かったってことかもしれない。 「良くない」  と思ってたら本人がそれを否定するようなことを言うもんだから、少々むっとしてしまった。 「なんで」 「同僚とたまたま雨宿りした場所。で、これは、まずくないっすか」 「どうせラブホに泊まったこと自体言えねぇからなにしたっていいだろ」  でも春永が言いたいのは、どうやらこれからのことらしい。  俺がすでに脱がした春永の上に跨っているせいもあるけれど、それを感じ取れるくらいには頭は鈍っていないらしい。っと、ローションはどこだ。 「……夏目さんって、名前なんだっけ」 「なんだよ、名刺交換でもするか?」 「そーゆーのホント萎えるんでむしろ大学生のつもりでお願いしたい」 「ふっ。……おっけ、じゃあゴムつけねー」 「え、それは別じゃない? ……いっ!?」 「きっつ。もうちょい力抜いて」 「いやあのもうちょっと丁寧に愛撫とか……いいい、ちょっ、聞いてぇー?」  まあせっかくラブホに来てるんだし、初めてじゃないし、大雑把に色々省略してもいいだろう。大人だし。あ、今は大学生だっけ?

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