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第2話

 ――仮令僕が彼の身代わりだったとしても  其の欲の高まりは誰を思っての事なのか。彼の頭の中には、誰と話して居る時でもただ一人の存在がある。直前迄高めた其の思いは目の前に居る自分への物では無く、頭の中の彼への――――  ドストエフスキーの望む『人物』を演じる事が、彼の笑顔に繋がる。  ――――道化師は、観客の笑顔を生み出すものだから。  ――ソウダ、ダカラ嗤エ。  痛いなんて言葉で表現しきれない。心も躰も。血の涙を流し続けても君の為に与えられた役を僕は演じ続ける。 「――ッ、こうして見ると、貴方は本当に」  ――『彼に似ている』  其の言葉を訊きたくなくて、口許に笑みを偽る。無理矢理にでも作り出した表情が、此の状況下では余計に『彼』を彷彿させる事だとゴーゴリは知って居たからだった。 「……っあ、……もう、限界なの……ッ?」  二人の息遣いと軋む長椅子の音が響く此の空間は、酷く欺瞞と悪意に満ちて居て、端から見れば滑稽な喜劇。  背中に隠した両手の中で、拳を強く握り込む。長い爪が皮膚を突き破る其れが未だこうして役者であると自らに知らしめる。  だけど、  ――――演技ノ最中、正気ニ戻ル役者ハ役者ジャナイ。 「ふっ、……ハハ、ハハハ……あははは!」  演技崩壊。思わず堪え切れない叫びが飛び出す。意識に掛けられた拘束は意図も容易く崩れ、ゴーゴリは血塗れの掌を戻し、目隠しの上から自らの顔面を覆い隠す。  ――見エナイケド、見ナイデ。

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