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第4話

 意識の喪失からどれ程の時間が経過したのだろうか。  ぺちぺち、ぺちぺち。 「起きて下さい、ねえ」  執拗に頬を打つ音と自らを呼ぶ声にゴーゴリは白く重い靄の中から意識を浮上させる。 「…………重いよドス君」  見慣れた天井、薄暗い此の室内は意識を飛ばしたドストエフスキーの部屋。先程迄と変わらず長椅子の手摺側に頭を乗せて横たわって居るようだった。先程迄と違うとすれば、整えられた互い着衣、腹部の上にドストエフスキーが跨がって居る事だった。重くて一切の身動きが取れない。  ゴーゴリが其の事実に苦言を呈しても、何処吹く風とドストエフスキーはゴーゴリの顔を両手で包み込み顔を覗き込んで居る。其の表情は先刻と何も変わらない。  身動きすら取る事が出来ず近付き過ぎる顔を避けようと片手を翳せば、其の時に気付いた手に巻かれた不器用な包帯。 「起きましたね?」 「起きたよ」  其れでもドストエフスキーがゴーゴリの腹の上から降りようとする兆候は見られない。 「……却説、僕は一つ貴方に伝えなければならない事が有るようですね」  其の言葉を訊いた瞬間、意識が再び真っ白な靄に奪われそうに為ったが、二度目をドストエフスキーは赦さなかった。無骨に包帯が巻かれたゴーゴリの両手の指へと指を絡ませて緩く握り込む。 「ちゃんと訊いて下さい」 「……訊かないと、駄目かな?」  外套は部屋の端に放られ逃走する術も無い。両手は捉えられ、歪む表情を隠す事も耳を塞ぐ事も出来ない。 「訊かないと犯しますよ」 「御免、訊くから勘弁して」  云い乍らも無表情の儘近付く顔を避けるだけで手一杯だった。五指を絡ませ握り返した手で押し返そうとしても、重力の観点からも利はドストエフスキーに有る。 「……何故避けるのですか?」 「ッ、話をするのに此処迄近付く必要無いよね……っ!?」 「……避けられると傷付きます」 「うぉえっ!? 御免ドス君!」 「矢張り犯しましょうか」 「待って待って待って何で!?」  近付く顔を拒んだ事が機嫌を損ねたのか、両腕に体重を乗せてドストエフスキーは更に顔を近付ける。鼻先が触れるか触れないかの位置迄近付けば互いの顔はぼんやりとしか見る事が出来ない。紫水晶の様な二つの眸は真っ直ぐゴーゴリを見据える。  ――――僕は貴方を太宰君の代わりにした事は一度も有りませんよ。 「……………………は?」

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