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第2話
こういう時に電車に乗るという選択肢はない。不特定多数のアルファに当てられたら、それこそ通報ものだ。それだけは避けたい。会社の前でタクシーを拾って乗り込むと、運良く運転手はアルファではないようでほっと息を吐いた。
行先を告げて体をシートに沈ませる。
(朝は何ともなかったのに)
只でさえ発情期は面倒だというのに、これが不定期なのだから憂鬱極まりない。
スマホが震えて、画面を見れば小田くんからの返信だった。
『大丈夫?早く帰るようにするので、気をつけて帰って下さいね』
いつだって彼は僕に優しい。
(急がなくても大丈夫だよ)
そう返信をする。本当は早く帰ってきて欲しい、けど。毎度毎度迷惑も掛けられない。
(小田くんだって、仕事あるんだから)
発情期になると心のバランスも不安定になって心細くなるのはいつもの事。今日だけじゃない。
(小田くんが帰ってくるまでに、もうちょっと落ち着いておこう…)
タクシーを降りて、小走りに家へ向かった。
「くっそ……」
エレベーターに乗り込むと目の前がグルグル廻り出した。
離れて隣に立つスーツ姿の男を見ないように、ぎゅっと握り締めた掌に視線を落とす。
(ダメ、もう少しだから……我慢)
アルファ独特の、香水でも体臭でもない、甘い香りがエレベーター内に漂っている。もちろん、僕からは何のフェロモンも出ていないのだからきっと僕が発情期を迎えているなんて気付きもしないだろう。
「あの、大丈夫ですか?」
「……大丈夫、です」
声を掛けられて、ぶわっと僕を誘う甘い香りが濃くなる。
ああ、どうしよう。ここで失態を犯すことはできない。早く、早く!
じっと階数を知らせるランプを睨んで、扉が開いたと同時に走り出した。背後で何か言われた気がしたけど、構っていられない。ガチャガチャと鍵を何度も刺し直しながら、ようやく家の玄関に入る。鞄とジャケットを足元に落として、靴も脱ぎ捨てた。
「は……あ、も、がまん、できない……っ」
リビングのソファーにうつ伏せに横になる。革張りのそれが、頬に当たって気持ちがいい。
「小田くん、……まだかなあ」
ズボンを脱ぎ捨て、窮屈なパンツの上からそこを撫でる。
「ん、ふあ……あ、んん……」
既に先走りでしっとり湿っていて、布が先端を擦るだけで体が震える。
パンツを半分下ろして直接性器に指を這わす。もう熱くて破裂しそうだ。
(1回だけ、)
「ん、ん、は、あんっ」
ぬるぬると滑りの良い竿を右手で握って、腰が揺れるのはもう止められない。
(1回出したら、小田くんが帰ってくるまで……我慢する……)
「あ、ぁん、ふ……あっ」
あっという間に射精したけれど、まだ治まりそうにない。
「おだ、くん……はやく、」
体を丸めて足の指先に力を込める。
まだ外は明るい。
こんな時間から僕は何をやっているのだろうと、真っ白になる頭で考えていた。
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