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爽やかな陽の光を感じて、机に突っ伏したまま眠ってしまっていたマシューはゆっくりと瞼を開けた。眠い目を擦りぐーっと身体を伸ばして徐々に覚醒すると、久方振りの朝日が心地いい。ラビエル王国を毎年襲うひと月もの嵐の時季は、どうやら過ぎ去ったようだ。
マシューは思わず笑顔になって、立ち上がって顔を洗いに行こうとしたその時、シャッと軽い音を立ててベッドの天蓋が開けられた。
「おはよう、マシュー。」
そこから顔を出したリヒャルトは、スッキリとした晴れやかな表情をしている。顔色もよく、嫌な呼吸音もしない。嵐が去り、リヒャルトの体調も落ち着いたようだ。
マシューは思わず駆け寄ってその胸に飛び込み、勢い余ってベッドに倒れこんだ。
「うわっ!」
「わぷっ!ご、ごめんなさ…」
謝罪の言葉は、唇で塞がれた。
抱きしめてくれる腕も身体も、触れ合う唇も熱くない。心地いい熱。マシューは嬉しくなって、今度は自分からキスをした。
「ありがとうマシュー、愛してる。」
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マシューを拐いリヒャルトの暗殺を企てたラインハルトは、その後すぐに姿をくらませた。しかし、ゲオルグに右脚を噛みちぎられたラインハルトは、思うように移動出来なかったのだろう。リヒャルトがすぐに編成した捜索部隊によってものの1日足らずで発見され、その後全てを洗いざらい吐き出したラインハルトは今、王城の地下牢に幽閉されている。
驚くべきことに、彼は今回の暗殺計画の他にも、リヒャルトが常備している薬に少量の毒を混ぜていたことが明らかになった。それを発見したのは医者であるジークハルトで、道理で効きが悪い上に昔は無かった副作用が出る訳だと激昂。その行動から見えるラインハルトの危険性と残虐性を高々と国王に訴えラインハルトの王位継承権を剥奪させた。
繰り上げで第一王位継承者となったのは、当然ジークハルトだ。
かねてよりジークハルトを次期王に望んでいた母オリヴィアは歓喜して、望み通りラインハルトを失墜させたリヒャルトを抱きしめキスをして、あなたの願いはなんでも叶えてあげるわと囁いて去って行った。リヒャルトは相変わらずの愛想笑い、マシューには能面のように見える笑みを浮かべて彼女を送り出し、次は貴女の番ですよと呟いた。それを拾ったのは、マシューとゲオルグだけである。
ラインハルトによるリヒャルト暗殺未遂事件は国内外に激震をもたらし、彼の再起は不能となった。やはり獣人は人間には敵わないという蟠 りを残し、ラビエル王国王位継承権の争奪による内乱の危機は嵐と共に去って行ったのだ。
どこからどこまでがリヒャルトの思惑通りだったのか、それはリヒャルト本人しか知らぬことである。
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「あ〜〜〜…三日振りの風呂…最高だ…」
「ふふ、リヒャルト様お風呂お好きですよね。」
「このでかい風呂に溢れんばかりの湯を沸かして思う存分浸かる幸せに浸れるだけでも俺は王族に生まれて良かったと公言できる。そもそも風呂なんて文化があるラビエル王国は本当に素晴らしいと思う、ありがとうかつての偉人たちよ…」
天を仰いで大真面目に風呂への愛を語るリヒャルトをクスクスと笑うと、リヒャルトは紫色の美しい瞳をより一層輝かせて、マシューにちょいちょいと手招きをした。
マシューは少し躊躇した。
そもそも一緒に風呂に入るつもりなんて無かったのに、体調が良くなって嬉しいのか絶好調のマシンガントークに押されるうちに流れで一緒に風呂に入ってしまったのだが、風呂に入ったら入ったで今度は無言でガシガシ全身洗い出すリヒャルトの隣で、隔たりはタオル一枚だけのお互い全裸という状況に緊張してしまったのは自分だけかとちょっとガッカリしていたところだったから、ここでゆっくり風呂に浸かったらまた意識してしまいそうで。
そんな懸念もあり、マシューはリヒャルトとの間に丁度人一人分くらいのスペースを空けて、体を小さく丸めて隠しながら入水した。
「………なんだ、この隙間は。」
「いえ、その………」
一瞬の間があって、リヒャルトがその隙間を埋めようと近寄ってくるのと同時に、マシューはその隙間分そろりと逃げた。じーっと見つめられているのがわかる。なんでも見透かしてしまいそうな、いや実際大抵のことは見透かしてしまうのであろうリヒャルトの瞳に射抜かれて、マシューはじわじわと全身が熱くなり、それが顔まで達してきて思わず顔を半分湯の中に沈めて隠した。
その様子を、やはりじーっと見つめていたリヒャルトが、にやりと悪戯っ子のように微笑む。マシューはビクッと大きな耳を立たせた。
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