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じりじりとリヒャルトが近付いてくる。こういうところは、意地悪だ。マシューはもう逃げるわけにもいかず、視線を泳がせる。 「なんだ、照れているのか。可愛いな。」 「ち、ちが…」 「違うのか?」 まっすぐな視線がどこかシュンとしているように見えたのは、恐らくマシューがリヒャルトに対して抱いている半ば盲目的な程の愛がそう見せたのだろう。 とにかく、マシューに距離を取られたことにショックを受けたように見えてしまって、マシューはますます赤くなりながらそれを否定しなければならなくなった。 「ちが、わない…です…」 そうなると、リヒャルトはとろりと蕩けてしまいそうな満面の笑みを浮かべてマシューをギュッと抱きしめ、こめかみにそっとキスを落とした。マシューは恥ずかしくてリヒャルトの目を見ることすらできない。久しぶりに触れるリヒャルトの素肌の感触に、煩いくらいに心臓が鳴る。病み上がりとは思えないほどしっとりしたその肌からはほんのり甘い香りがして、マシューは目眩がした。 ちらりと見上げたその視線が、物欲しそうだったかもしれない。 実際、欲しいと思った。 リヒャルトの美しい瞳に吸い寄せられるように顔を寄せて、その意図を正しく汲み取ってくれたリヒャルトから優しく口付けが落とされる。すぐに離れていったそれを追いかけたのは、マシューの方だった。 ずっと、それどころじゃなかった。 今にも死んでしまいそうなほど苦しそうな呼吸で高熱に魘されているリヒャルトを前に劣情なんて抱くはずもない。元来性欲が強い兎獣人だから自己処理だけは3日に1回必ずしていたが、それだって物凄い嫌悪感だった。リヒャルトがあんなにも苦しんでいる中、こんなことをしているなんて、と。 だから、久し振りに触れたリヒャルトの肌に我慢がきかない。もっと触れて欲しいし、もっとキスして欲しい。 マシューの手が縋るようにリヒャルトの腕を掴むと、その腕はマシューの背中を優しく撫でてじわりじわりと下へ降りていく。ずっと重なったままの唇はとっくに深い口付けに変わって、どちらのものかわからない銀の糸がマシューの細い顎を伝った。 ふわりと甘い香りが立ち上る。それは久しぶりに感じるリヒャルトの、βのマシューには僅かに感じられるだけのフェロモンだ。 「んッ…ん、ふ…」 マシューが両腕をリヒャルトの首に回して全身を委ねると、しっかりと受け止めてくれる。風呂の淵にマシューを座らせてゆっくりと下肢を撫で、重なっていた唇が徐々に下へ下へと降りていく。そして中心で既に存在を痛いほどに主張するそこにたどり着くと、リヒャルトはその先端に口付け、含んだ。 「あッ…!あ、だめ、やッ…そんなこと、しちゃ…ッ!」 突如襲った刺激に目の前で火花が散る。 マシューは目の前に広がる光景に愕然としながらも、既にその快楽の虜だった。 リヒャルトの湿った漆黒の髪が美しい頭をギュッと抱きしめ、勝手に動きそうになる腰をなんとか宥めながら熱い口内がもたらす快楽に溺れる。 「あふ、や、ッ…や、出ちゃう…あッ…ふぅううんッ!」 それは強烈な快感で、あっという間に上り詰めた。 全身をがくがくと震わせながら吐き出された欲望はリヒャルトの形のいい唇から一筋漏れて伝っていく。それを指先で拭ったリヒャルトは、口内に残った白濁をごくりと音を鳴らして嚥下した。 それに顔を青くしたのは、もちろんマシューだ。 「リっ…!のん、のん…!?」 「知ってるかい?これ結構な栄養源になるって。戦場では最終手段として兵が…」 「知りません!もう!!」 プイッと照れ隠しにそっぽを向いてしまったマシューをクスクスと小さく笑ったリヒャルトは、マシューをふわりと抱えて自分と場所を入れ替える。風呂淵に腰かけたリヒャルトが立っているマシューの脇腹をつーっと撫ぜてヘソの周りに舌を這わせると、ゾクゾクとゆるい快感が果てたばかりの中心を再び刺激して、マシューは身をよじって耐えた。 そんなふうに刺激してくる癖に楽しそうに笑い続けるものだから、マシューはいよいよむくれてコツンと軽くリヒャルトの脳天を小突いた。 「ふふ、マシューが段々俺に遠慮しなくなるのが嬉しくてね。」 「…リヒャルト様は段々意地悪になりました。」 「マシューが可愛いから。」 「ひゃっ!?」 その時、びしょびしょになって湯を滴らせているマシューの尻尾を絶妙な力加減でキュッと握られて、マシューは突如襲った快感に素っ頓狂な声を上げてリヒャルトにしがみついた。 リヒャルトはしっかりと受け止めつつ、目の前に現れた小さな胸の果実に齧り付く。それもまた快楽に直結して、マシューは声を上げ、それが広い風呂場に反響して羞恥心を煽られて、終わりのない快楽のループに巻き込まれていった。

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