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快楽に震えるマシューの痩せた腰をがっしり掴んで快楽を与え続けるリヒャルトに、マシューの方が焦れてしまう。身体を擦り寄せて、とっくに立ち上がって濡れている中心を押し付ける。そのうちに腰がゆらゆらと揺れてしまうのがまるでねだっているようで恥ずかしくて堪らない。ジワリと涙を浮かべていやいやと首を振ると、溢れた透明な雫が湯に振り落とされて波紋を作った。
それを見たリヒャルトは、目尻に残った涙を唇で掬い上げると拗ねたように尖った唇にキスを一つ落として、漸く濡れそぼった指をマシューの蕾に忍ばせた。
「ん…ッ!」
「ねぇマシュー、俺ずっと気になってるんだけど…この可愛いうさ耳と人間の耳、どっちで物を聞いてるの?」
そう聞きながらマシューのうさ耳の付け根をやわやわと弄ぶリヒャルトの指先は、麻薬のようだ。敏感な部分を強すぎない程度に刺激していく。その器用な芸当は、指先の感覚が鋭敏な人間ならではだとマシューはいつも思うのだ。
「あぅッ…僕、は、兎の方…んッ!」
「なるほど、じゃあこっちは聞こえていないのか?」
「んあッ…ほとんど、聞こえて…や、ああッ…!」
「ふぅん…でも神経は通っているんだな。」
敏感。
ほとんど吐息の範囲で、あまり耳としては機能していないリヒャルトと同じ形をしたそこで囁かれて、マシューはバシャっと水飛沫が上がるほどに反応してしまった。
一度果てているにも関わらず涎を垂らして解放を待っている中心、の後ろで、美味しそうにリヒャルトの指を咥え込んでいる秘孔。リヒャルトが寝込んでいる間一人で処理する際に触っていたせいですっかり柔らかくなってしまったそこ。リヒャルトがゆっくり指を抜くと、湯とは違う粘度のある水音を立てて今か今かと待ちわびている。
「マシュー…」
どこまでも響き渡る不思議な力を持ったリヒャルトの声が、広い風呂場で反響してマシューの心の奥底に響いてくる。万物を虜にするだろう瞳に囚われて、マシューは吸い寄せられるように顔を寄せた。額を合わせて瞬きをひとつすると、リヒャルトの長い漆黒の睫毛と絡み合って不思議な感触がした。それにクスッと笑いあって、唇を重ねて舌を絡め合いながら、ゆっくりと繋がった。
「は、ぁ…あッ…」
「ん、…ッ、熱いな、大丈夫か?」
マシューはこくこくと何度も頷いた。
顔を真っ赤にして息を荒げ、くったりとリヒャルトに身を委ねる様子は、もしかしたら逆上せているようにも見えたのかもしれない。
マシューが瞼を持ち上げると、すぐそこに美しい紫水晶がある。その中に写る自分はひどくだらしがなくて情けなくて、そう、言うなれば淫らで。そんな自分の姿を見て、思う。
(リヒャルト様に、逆上せてる。)
なんて。
マシューは恥ずかしくなって、ギュッとリヒャルトの頭を抱え込んだ。
「ふふ、抱きついてくれるのは嬉しいが…動けないなこれじゃあ。」
「う、んんッ…や…」
「俺はこのまましばらく…というのもいいと思うが。どうする?」
「や…だめ、動いてくださ…」
どうしようかなと意地悪く呟いたリヒャルトは、マシューのガクガク震えている腰をそっと撫でる。宥めるようなその動きは寧ろ煽られているようで、マシューは知らず知らずのうちに腰を揺らし始めていた。
パシャパシャと湯が跳ねる音に混じるいやらしい音を、マシューの鋭い聴覚はひとつひとつ拾っていく。その音は段々と激しくなっていく。それに伴って大きくなるのは、風呂中に響くマシューのあられもない声だ。
「あっあッ…ああッ!やだ、や、止まんない…!や、ああ…ッ!」
マシューが激しく振りたくる腰を下から支えてくれているリヒャルトは、僅かに眉根を寄せて息を荒げている。その目の中に少しだけ、しかし確かに獣のような獰猛な雄を見て、マシューはどくんと胸が大きく高鳴った。
リヒャルトがマシューの湯と汗が伝う白い喉に唇を寄せる。
つぅ、となぞる温かいものは、舌だ。そして舌が這った跡にあてがわれる歯。
マシューは胸が締め付けられるような痛みに襲われた。心の奥深くにしまい込んだ決して叶わない願いが大きく膨れ上がって、マシューの喉をせり上がってくる。言ったところでどうにもならないそれを、マシューは一筋の涙と共に零した。
「リヒャルト様の…番に、なりたい…ッ!」
βのマシューに、それは無理な願いだった。だから一度も口にしたことなどなかった。
だけど本当は、身も心も何もかもリヒャルトのものになりたかった。彼のものになった証をこの身に刻んで、彼だけを愛せる身体になりたかった。
リヒャルトが大きく目を見開くと、マシューの目にみるみる涙が溢れて滝のように溢れた。それはもう湯と間違えようがないほどに。マシューはゴシゴシと拳でそれを拭ったが、次から次へと溢れるのでついに俯いてしまった。
馬鹿な願いを抱く愚かな兎をどうか見捨てないで、と。
「…マシュー。」
そのマシューを呼ぶリヒャルトの声が僅かに掠れていて、マシューが顔を上げたその瞬間。
「いッ…!ん、あぁーーーッ…!」
ブツ、と鈍い音を立ててマシューの生白い頸に歯が食い込んでいく。なんの意味も持たないその行為にマシューは歓喜の声を上げた。
ガツガツと下から突き上げられて暴力的なほどの快楽に襲われながら何度も何度も角度を変えてリヒャルトの歯がマシューの頸を食い破り、マシューの首筋に確りと歯型を残した。
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