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自分の薬指に嵌っている真新しいものとそれを交互に見つめるマシューに、リヒャルトは憂いを見せながら、静かに語り出した。 「すまない、見つけた時にはもう…なんとしても見つけ出して返そうと思っていたんだが…結局代わりのものになってしまった。」 「そんな…!僕、もう手元には戻ってこないと思っていたから…すごい、本当に嬉しいです!」 それはマシューの心からの言葉だった。 本当にもう手元には戻ってこないと思っていたし諦めもつけていたが、胸元を握ってしまう癖はなかなか抜けず、握ってからそこにはもう何もないことに気付いていた。それをリヒャルトは見抜いていたのだろう。自分のことを、本当によく見ていてくれている。それがマシューには嬉しかった。 リヒャルトはすこし困ったように微笑んで、ありがとうと囁いた。礼を言うのはこっちなのにとマシューが両手を振ると、リヒャルトはその左手を取り、片膝をついて新しい指輪が嵌められた薬指に口付けを落とした。 「リヒャルト様…?」 突然の恭しい愛情表現に困惑したマシューは、照れもあって曖昧な笑みを浮かべた。戸惑いをありありと見せるマシューにニコリと微笑みかけたリヒャルトは至極真面目な顔で、マシューの左手を両手で包み込み己の額に当てる。 その祈りを捧げるような仕草は、見覚えがある。リヒャルトに出会った日、壊れてしまった最初の指輪をくれた日も、この人はこうして祈りを捧げた。 それはとても様になっていて、とても美しい姿だった。 「私、リヒャルト・オリヴィア・ラビエルは、ここにいるマシュー殿を妻とし、健やかなる時も病める時も、喜びの時も悲しみの時も、貴方を愛し敬い…この命ある限り真心を尽くすことを、誓います。」 顔を上げたリヒャルトが、あまりに幸福(しあわせ)そうで、眩しくて、そしてその至高の輝きに目一杯の愛情を感じて、そのなかに自分の姿があるのを自分の目で確認して。 マシューは、顔をくしゃくしゃに歪めて大粒の涙を流した。 「ひっ…ふえ、ッく…」 こんな場面、知らない。見たことも聞いたこともない。人の幸せに触れる機会すらなく、自分の幸せはリヒャルトに出会ってからのこの一年だけ。全てリヒャルトが与えてくれた幸せだ。 だから、こんな場面でなんと言えばいいのかわからない。壊れたブリキのおもちゃのように首を縦に振って、汚い泣き顔を晒して涙で折角の礼服を汚すだけしか、マシューには今の幸福をリヒャルトに知らせる術が無かった。 リヒャルトはそんなマシューをそっと抱きしめて、背中をゆっくりと撫でながらキスしてくれた。 その時ワッと城の内外が沸いた。 悲鳴、怒号、歓喜。様々な感情が渦のように巻き起こっている。それはきっとゲオルグとルイの逃走劇に対する民の動揺の声だったが、今このタイミングにおいて、マシューにはそれが自分たち二人を祝ってくれているように聞こえた。 割れんばかりのそれに負けないよう、成婚の祝いに国王から賜った冠をマシューに被せながらリヒャルトはマシューのよく聞こえる大きな耳元で囁いた。 「愛しているよマシュー。生涯君だけを。」 「僕も、…ずっと、ずっとリヒャルト様だけを、ずっと愛しています…」

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