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第3話
背中に青年を背負って、傘を肩に引っかけるように差して、片手で直の手を握って、家が近くなかったらこんな無謀なことはやらなかったかもしれない。
マンションの六階、部屋に入るなり、俺は青年を廊下に下ろした。
「パパ、ねこ」
まだ直は青年のことを“ねこ”だと思っているようだ。浜辺で波が石をさらっていくときに海がご飯を食べてるなんて思う年頃だ。仕方がないのかもしれない。
「いつからあそこに居たんだ? ここのところ、ずっと雨だって知ってるよな?」
直のレインコートを脱がせた後、ぶつぶつと文句を言いながら今度は青年の服を脱がしていく。どうして、こんなにされても彼は目を覚まさないのか。髪までドライヤーで少々乱暴に乾かしたというのに。
「ねこ、けがちてる」
「そうだな。はぁ……」
俺は本当に何をやっているのだろうか、と思う。顔の怪我も治療して、身体にあった痣にも湿布を貼ってやって……、名前も知らないのに。
「直、お腹空いたよな? 今、夕飯作るからな?」
青年を俺の布団に寝かせ、キッチンに立つ。録画しておいて幼児向けのテレビ番組を見ている所為か、直からの返事はない。
今日の夕飯はオムライスだが、彼は食べるだろうか? いや、腹が減ったと言っていたから、きっと食べるよな?
そう思いながら、チキンライスを作って玉子を焼いている時になって青年がムクッと起き上がり、俺は思わず「うおっ!」と言ってしまった。その起き上がり方が、まるでゾンビのようだったのだ。
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