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第6話

「徹、ありがとう」  妻を亡くして、息子まで亡くしたら俺はきっと堪えられない。そんなことはないといつも思ってはいるが、たまにそう考えてしまう時がある。小さな子供は危うすぎる。 「あのさ、そんなに急いで出て行かなくて良いから、今日泊まってけば? お前が嫌じゃなければだけど」  徹の腕から自分の腕に直の身体を移しながら言った。「もっと警戒心を持て」だとか「初めて会った奴に何を言っているんだ?」とか、心の中ではおかしなことを自分がしていることは分かっている。だが、心のどこかで人生を諦めている自分が居る。  表面上で叱っておきながら俺も、生きることに疲れている。 「お……」  声を洩らしたのは俺だった。風呂が沸いたと湯沸かし器が軽快なリズムで鳴いたのだ。 「てちゅ! いく!」 「俺、まだ何も言ってな……」  音に反応するようにくせっ毛の我が子が徹の手を引いて風呂場の方に歩いて行く。もうご飯は良いのだろうか? と思うが、まあ良いのだろう。一度気が削がれたら、その気は戻ってこない。 「徹、下着、これで良いか?」  未開封の赤いボクサーパンツを持って風呂場に行くと直は既に裸になっていた。 「なんでも良いけど、どうすりゃ良いんだ?」  徹は困った顔で脱衣場を見回している。 「服脱いで」 「それは分かる」 「直を先に洗って、外に出してから自分が身体洗ったりとか……」 「大変だな」 「あー、すまない。今日知り合った年下の奴に任せることじゃないよな?」  他人に我が子の世話を任せるのは怖かったが、少しだけ甘えが出てしまった。我が子の存在が消えるのは怖いが、一人でその存在をずっと見ていなければならないことに疲れを感じていたのだ。 「分かった」 「は?」 「任せろ、ちゃんとやる」  目の前で服を脱ぎ、徹は俺が貼った湿布を剥がした。直が後ろではしゃいでいるのが見えた。 「……近くで、飯食ってるから」  そう言ってしまった。甘えてしまった。やっと一人になれたと思ってしまった。やっと少しの休息が取れた、と。

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