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第7話
廊下に座って自分の作ったオムライスを食べながら、ずっと不安な気持ちに駆られていた。見ず知らずの、今日知り合ったばかりの青年と自分の息子が一緒に風呂に入っている。もし、息子が溺れてしまったら……、存在が消えてしまったらどうしよう……。だが、その時は徹のことを責めることは出来ない。自分が悪いのだ。怠けたのだから。
「パパ!」
直だ。直が風呂から無事に戻ってきた。どのくらい時間が経ったか分からないが、息子はちゃんと戻ってきた。
「パパ、てちゅかわいいね」
そう言う直をバスタオルを広げて迎え入れてやる。徹は一人、今から髪を洗い始めたようだ。ちゃんと言ったことを守ってくれたのだ。
「徹が?」
「うん!」
「可愛いかな?」
一体、徹は直に何をして、何を話してくれたのだろうか。また猫パンチと言ったのだろうか? また、あの顔で笑ったのだろうか?
――確かに、可愛いかもしれないな。
「パパ、てちゅ、かう?」
「徹、飼えるかな?」
飼わせてくれるだろうか?
「なお、おねがいしゅる!」
「え?」
急に直がバスタオルから飛び出した。
「てちゅ! てちゅ!」
裸のまま風呂場の扉を叩く。小さな手がバンバンと曇りガラスを叩く様は土砂降りの雨が窓を叩くのと少し似ている気がした。
「んだよ?」
突然の嵐の襲来に、髪から水を滴らせた徹が扉の隙間から顔を出した。
「てちゅ、けっこん! けっこんちて!」
徹の顔を見上げながら直が大声で言った。ご近所迷惑は大丈夫だろうか?
「おいおい直、どこで覚えた? そんな言葉」
「何言ってんだ?」
「俺もそう思う」
戸惑いながら直を扉から離そうと二人に近付いた時だった。
「てちゅ、けっこんちて! パパとけっこんちて!」
息子の衝撃的な発言を聞いてしまった。
「い、いや、パパとは……無理、じゃないか?」
直は結婚という言葉の意味を理解していないに違いない。徹の眉間に皺が寄ったのが見えた。
「す、すまない。邪魔したな、ゆっくり風呂に入ってくれ」
また風呂場に入っていきそうな勢いの息子を抱き上げて、俺はリビングに戻った。
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