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第9話

 真夜中のことだった。 「……っ」  急に肩を揺すられ、俺は目を覚ました。 「……徹?」  ぼやける視界に入ってきたのは、こちらを心配そうに覗き込む徹の顔だった。外の街灯の光で微かに見える。 「うなされてたぞ?」 「すまない」  悪い夢を見ていた感覚だけは自分の中にも残っている。内容までは覚えていないが、ほとんど毎日悪い夢を見ている。 「あんた、疲れた顔してるな」  疲れた顔……、鏡を見れば、いつもそんな顔をした自分が映っている。息子のために頑張らなければ、いつもそうやって誤魔化している自分が居る。 「……徹、なあ俺、どうすれば良いかな?」  なんだか酷く笑えてくる。ヘラヘラとしてしまう。尋ねたところで徹にだって解決策があるわけじゃないって分かっているはずなのに。 「さあ?」 「そうだよな……」 「泣けば良いんじゃねぇの?」 「え?」 「泣けよ、どうせ泣きそうな顔してんだから」  むすっとした顔で、徹が一つ大きなあくびをした。その姿はあまりに暢気で同じ時間を過ごしている人間だと思えなかった。ただ、徹の言葉に込み上げてくるものがあった。 「年下の前で泣くって……俺……、やばいな」  込み上げる感情を必死に押さえながら、俺は両手で顔を覆った。 「何が?」  両手の向こうから覗き込む気配がする。間に眠る直は静かに寝息を立てている。 「いや、かっこ悪いでしょ」 「じゃあ、取り敢えず、俺のこと抱き締めとけば?」  どうして、そんなことを言うのだろうかと思う。だが、もう堪えることは出来なかった。 「ふっ、俺、お前のこと好きだ」  徹を抱き締めて俺は泣きながら笑った。心からの冗談だった。窓の外は土砂降りの雨だった。

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