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第10話
次の日の朝、直を幼稚園に送るために俺は徹と一緒に家を出た。
「学校あるだろ? 傘、貸してやるから、今度返してくれ」
園の前で徹に貸した紺色の傘を指差した。梅雨の期間、まだ雨は続く、当分徹が傘を返しに来ることはないだろう。
「てちゅ、バイバイなの?」
「そうだよ、徹はこれから学校に行くんだ。直もこれから幼稚園だろう?」
俺もこれから仕事がある。直は「うん!」と大きく頷いたが、徹は何も言わない。
「ちゃんと学校行けよ?」
直を園の先生に預け、俺は徹の背中を軽く叩いた。まだ徹は何も言わない。
「どうした? 痛いのか?」
無意識に徹の口元の傷に指で触れていた。
「痛ぇ」
反射的にぐっと手を掴まれた。
「すまない」
俺が軽く笑うと目付きの悪い視線はスッと静かに去って行った。
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