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第11話

 徹に嫌われたと思った。別にそれでも良い、会ったばかりで名前しか知らないのだ。失ったのは貸した傘くらい、そう思っていた。 「てちゅ!」  夕方、雨の中、直を連れて家に帰ると玄関の扉の横に徹が座っていた。 「傘、返しに来た」  俺と直に気付くと徹はこちらに水の滴る紺色の傘を差し出した。 「まだ使うだろ?」 「使う」  傘を受け取らずに部屋のカギを開けると徹が立ち上がった。 「考えた」 「何を?」 「あんたが良ければ、毎日返しに来る」 「それって……」  梅雨が終わったら、傘を返しにくるっていう理由が無くなってしまうってことだよな? 「考えたんだ、駄目か?」  真面目な顔をして徹が首を傾げる。ずっと考えていたから反応が鈍かったのかと気が付いた。 「駄目じゃない。な? 直」 「うん! てちゅだっこ!」 「誰が駄々っ子だ?」 「違う、抱っこだ」  ハッとして徹が直を抱き上げる。嬉しそうに笑う我が子。ずっと雨が止まなければ良いのに、と思ってしまった――。  

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