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誕生日が来ましたよ!-2
夕方まで何となくソファの上にいた。別に何をしていたわけでもないのに、二人で手足を絡ませてソファに横になっていると、あっという間に時間が過ぎていった。ちょっと話をして、ちゅっとキスをして、そのまま鎖骨やら背筋やらに指を添わせて……うぅ、時間なんて、いくらあっても足りないよ。
そのうち夕方になって、「飯作ってくるから、ちょっと適当に寛いでくれ」と大竹は席を立ってしまった。なんべん手伝うよと言っても、「決して私が作っているところを覗いてはいけませんよ」と、大竹は頑として譲らない。キャンプの時は二人で普通に食事を作るが、何で今日に限って一人で作ると主張するのだろうか。一人でいたって、寂しいばっかりで、楽しいことなんか無いのに……。
「先生、二人で作った方が早くない?」
「……不器用に作って、まずそうに思われたらイヤだ……」
「思わないよ!ね、先生!」
「うるさいな、お前は宿題でもしてろ!」
「も~!すぐそうやって先生っぽい事言って誤魔化すんだから!!」
「うるせぇ!俺は先生だ!」
いくら言ってもらちが明かないので、「じゃあ先生のアルバムとか見てて良い~?」と譲歩してみたのだが、「アルバムなんか無いぞ?」と、これもつれない返事だ。
「無いの!?」
「ガキの頃のは実家にあるし、デジカメが普及してからの写真はハードディスクの中にあるけど、あんまり記念写真ぽいのは撮らないな。撮るのは山行った時の風景写真ぐらいか」
「じゃあパソコンの中の写真見て良い?」
「パソコンの中は生徒に見られたらまずい物が色々入ってるから、ダメに決まってんだろ」
「じゃあ俺何してたら良いんだよ~!そしたら先生のクローゼット、勝手に整理して良い?」
「……なんで……?」
「え?先生の私物に興味があるから?」
「うわ……なんかそれもストーカーっぽくて怖いな……。ま、まぁ見られて困るモンは無いと思うから、別に良いけど……。あ、書類は見るな。学校の奴混じってるから」
「了解です」
そう言うと、設楽は大喜びで大竹の寝室に入っていった。
大竹の寝室に入るのは初めてだ。
八畳ほどのゆったりした寝室なのに、セミダブルな上にロングサイズのベッドが置いてあるので、それだけで部屋がずいぶん狭く見える。
ベッドはヘッドボードが棚になっているタイプで、そのヘッドボードには読み差しの本が置いてあった。海外推理小説の原書だ。へぇ、先生、こんなの読むんだ。
窓際にはPCデスクが置いてあり、プリンターや、いつも仕事をしてるノートPCとは別に、デスクトップ型のPCが置いてある。そこは充電ステーションも兼ねているのか、携帯やタブレットのACアダプタが、タコ足で配線されていた。
「クローゼットの中はどんなかな~」
扉を開くと、大竹らしく几帳面に引き出しがずらりと並んだ収納が配置されていた。ハンガーラックの右側には学校に着ていくスーツやワイシャツ、ネクタイやコートが並んでいて、左側には私服らしいブルゾンやジャケット、山用のウェアが並んでいる。見出しのラベルが貼ってあるわけではないが、引き出しを上から覗いていくと、上の方の手の届きづらいところには登山用品や衣替え用の服などすぐ使わない物が、下の方には、下から順に靴下、インナー、ズボン、シャツ、と、体と同じ配置に服がしまってあって、あまりの大竹らしさに笑ってしまった。
隣の列には文房具だとかPC系のケーブルやパーツの予備だとか薬だとか消耗品がしまってある。
設楽はまるで宝探しのように大竹のクローゼットの中をいちいち覗いていった。「クローゼットを整理したい」などと言ったが、全く整理する余地など無いほどそこは整っていて、誰が見ても問題がないような健全な寝室だった。
こう健全すぎると、逆に暴いてみたくなる。最初は「先生の私物を見てみたい♡そんで先生のセーターの匂いとか嗅ぎまくりたい♡」などと思っていた筈なのに、今や目的はもっとピンク色な物に替わっていた。大竹が何を見て自家発電しているのか、その萌えどころがどこにあるのか、気になるのは仕方がない。
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