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バースデーディナー-4

「嘘!そんなお宝!?マジで俺これ貰って良いの!?」 「いや、沢山あるから!そんなお宝でもないから!」  大竹は慌てて言うが、数の問題ではない。大竹の子供時代の大切な思い出の品を貰って良いのだろうか。だが赤くなってシャンパンに手を伸ばす大竹に、設楽は素直に「ありがとう」と言って、指輪を軽くティッシュで拭くと、小指の先に嵌めて笑った。  大竹は子供の頃、この指輪が出てくるとどんな顔で喜んだのだろうか。  家族と暖かい隣人に囲まれて、祝日の食事に頬を染めて、自分の皿から指輪が出ないかとワクワクしながらフォークを入れる……そんな子供を想像しようとして、それが目の前の大竹となかなか結びつかなくて逆に苦笑する。大竹なら子供の時から皮肉っぽい顔をしていそうだが、まさかそんな子供だったわけではないだろう。 「先生って、どんな子供だった?」 「甘ったれたガキだったな。家族や周りの大人達に大事にされてるのが当たり前で、そのくせ自分で何でもできると思ってるような、どこにもでいる普通のガキだった」 「そういう事言える時点でひねくれたガキだったような気がするんですけど?」 「本当だって!昔はそれなりに可愛いげがあったんだよ!」  真面目に反論してくる大竹に「今だって可愛いじゃん」と笑うと、「可愛いのはお前だ」といつもの返しをされた。 「お前がどんなガキだったのかは大体想像がつくな」 「どんな?」  大竹の目に映る自分はどんなだろう。いつも設楽が「先生は可愛い」という度に「可愛いのはお前だ」と返されてしまう。二年になって大分背も伸びて、胸や腕にも大分良い感じに筋肉がついた。前ほど可愛くはなくなったと思うのだが、大竹の中では自分はまだ出会った頃のままなのだろうか。  だが、大竹の台詞は、あまりにも設楽の考えている物とは違って、ある意味大竹らしい台詞だった。 「今のお前をそのままミニサイズにしたら、ガキの頃のお前になるんだろ?」 「も~!どうせそんなことだと思った!俺がいつまでも子供のままだと思ってたら大間違いなんだからね!」 「しょうがねぇよ。お前が可愛いのは事実だから」  普段クソ意地が悪いくせに、こういう事をさらりと言えるのはどうしてだ!? 「俺が可愛いって言うと即座に否定するくせに」 「そりゃ誰がどう見たって俺が可愛いわけねぇし、お前が可愛いのは誰だって肯定するさ。このツラでこのでかさで俺が可愛いとか。ありえねぇし」  はっと嗤う大竹を、設楽は口を尖らせてじっと見つめた。 「……なんだよ」 「先生は可愛いよ。世界中の全員の人が先生を可愛げのないクソジジィって言ったとしても、俺には世界で一番可愛いよ」  その台詞に、一瞬の間が空いた後、大竹の顔が見る間に赤くなっていく。 「そ……そうかよ……」 「うん……」  先生、耳まで真っ赤じゃんかよ!何だよその顔!だから、その顔が可愛いんだって……!!  また先程のように甘酸っぱい雰囲気に戻ってしまったので、設楽は上目遣いに大竹を見て、もっと甘酸っぱいことを言ってみた。 「あの、もっと気の利いた方のは、俺がちゃんとした社会人になったらもう一度仕込んで貰っても良い……?」 「え……?」  一瞬、大竹は「もっと気の利いた方の」の意味が分からないような顔をした。  それから、それが先程の自分の台詞だと気がついて、赤くなった顔を更にうなじまで真っ赤に染め、テーブルの上の一点をじっと見つめで黙ってしまった。  大竹は暫くそうして黙っていたが、急に思い出したように「……分かった」と言うと、「暑いな」と言いながら慌てたようにシャンパンを煽った。  そのまま二人は下を向いて、微妙な空気のまま「た、食べちゃおうか」とフォークを握り直した。

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