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魅惑のバスタイムー1
風呂が沸くまでの間、二人は黙々とケーキを食べていた。
だが。全くそのケーキの味が分からない。いつもは堪らなく美味しい筈の、大竹の淹れてくれたコーヒーの味も。
だって、これから二人で風呂に入るのだ。
どうしよう。
こんな幸せな事って、あって良いのだろうか。
風呂とか。
先生と風呂に入るとか。
ドキドキしながら、それでも上辺だけは取り繕って「ケーキ、美味しいね」などと言ってみるのだが、大竹の方も上の空だった。
その時、いきなり電子音が鳴り響いて、二人は固まった。
──── ピピピッ オ風呂ガ沸キマシタ
男の声だか女の声だか分からないような電子音に促され、二人はぎこちなく「あ、沸いたね」「そうだな」などと冷静さを取り繕いながら立ち上がった。
「お皿洗おうか?」
「いや、だからお前が主役だろって。俺が洗うから、先に風呂入っててくれ」
「うん……」
自分からお皿を洗うと言ったのに、先に入っていろと言われると、皿なんか後にしてよと言いたくなってしまう。
ケーキ皿やコーヒーカップを手にキッチンに下がる大竹のうなじが、赤い。その赤さを見て、設楽はジワジワと恥ずかしさと嬉しさがこみ上がってきた。
洗面所で服を脱ぎ、丁寧に畳んで洗濯機の上に重ねておく。それから、設楽は洗面所の鏡で自分の体を確認した。
去年、初めて大竹と一緒に塩山で温泉に行ったときは、貧相な体をしているとからかわれたのだが、それが悔しくて設楽は今体を鍛えている。胸や腕にはうっすらと筋肉が乗ってきているし、腹筋には僅かばかりではありが、筋が入るようになった。
「よし。さすがにもう貧相とは言われないよな?でも先生だって言うほどガッチガチな訳じゃないじゃん。そういや水泳やってる人って、なんで肩周りは筋肉付いてるのに腰細いんだろう……」
そこが良いんだけど、と思わずニヤニヤしてしまった。
暫く洗面所で大竹が来るのを待っていたが、なかなか来なさそうなので仕方なく一人で風呂場に入った。
先にバスバブルを仕込んであるお風呂は、既に泡が立っていた。お湯の色は乳白で、中に入ってしまうと互いの体が見えないようになっている。
「……先生ったら、こんな抵抗を……」
まぁ良い。先生は先に俺を風呂に入れてしまったのが作戦的に失敗だったと今から思い知るが良い!
暫くすると大竹の姿が洗面所に現れた。うっすらと、服を脱いでいる影が見える。
何だかすごくドキドキする。温泉で服を脱いでいるのとは訳が違うのだ。大竹が服を脱ぐ時間が、ずいぶん長く感じられる。焦らされれば焦らされるほど、設楽の期待は高くなる。
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