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すべてを委ねる悦びを、潤は初めて知った。
颯真の手が触れる場所のすべてが、なぜか気持よかった。潤は足許から力が抜けてしまったが、兄のたくましい腕に抱かれる。胸の中で深呼吸すると、身体の奥からぞくりとする、そのミントの香り。こんなに自分を興奮させるものだとは全く知らなかった。
潤は理性が失われ始めているのを自覚していた。キスをせがむ。いつも見ていた、自分の名を心配そうに呼ぶ唇。それが近づいてきて、自分のものと重なる。最初は啄むように軽く。唇を触れさせて、重ね合わせて、そして深く。考えるより早く、パズルのピースが嵌まるように、口腔を重ね舌が入り込んでくる。ぞくぞくと背筋に快感が走った。呼吸が苦しくなるほどの激しさなのに、止められない。気持がいい。ずっとしていたい。
颯真の首に両腕を回してかじり付き、もう離さないとばかりに深く口づけた。
「んっ……!」
気がつけば自室で全裸にされていた。薄暗かった室内には間接照明が点けられ、自分が今どんな格好をさせられているのか、否が応でも分かる。先程這い出たベッドの掛け布団は取り払われてしまい、その上に俯せにさせられていた。
熱を持った身体は、少しぱりっとしたシーツの冷たさが心地よい。颯真に優しく請われるがままに、手と膝を就いて四つん這いになった。
かなり恥ずかしい体勢だが、颯真に耳元で囁かれては拒絶できない。
少し足を開けばその場所が容易に空気に触れる。すでにアルファの香りに刺激を受けてとろとろの後蕾が水気を含んでいることがわかり、かなり恥ずかしい。
しかし、それ以上にその場所はむずがゆくて、早く自分のアルファに触れてほしいと期待に揺れている。
堪らず手を自分で延ばす。
「あっ……ぅん」
少し誘うような声だったかとぼんやりと思うが、それを自分で恥ずかしいと思うほどの理性が残っていなかった。
「こら、一人で気持ちよくなるつもり?」
暖かい肌が、背中に覆い被さる。いつの間にかシャツを脱ぎ、たくましい上半身が見える。自分は筋肉が付かなくて細いのに、たくましい胸、そして腹筋。着痩せをするタイプらしく、普段はそのような印象はないのに、服を脱ぐと颯真はアルファらしさがあふれる。いつもは、双子なのにと、その違いに愕然とさせられるが、今は少し違う感慨を持つ。
「潤の身体……しなやかで俺は好きだけどな」
たとえ診察でも、触れられるのが嬉しかったと、颯真が呟く。颯真がそんな気持を持っていたなんて意外だ、と潤は思う。
潤も口を開きかけたが、颯真の手に触れられて、まともに声が上げられなくなった。
颯真の手が、肌を滑るとゾクゾクとする。薄い腹筋、脇腹、そして胸。さわさわと指が這うと、とたんに耐えられなくなり、肩を落として上半身を庇う。
その指の腹が、右胸の突起をくりくりとこね回す。思わず背中が曲がる。
「あ……ぁん」
口から漏れるのはもう言葉ではない。
アルファの香りに煽られて、声を押さえることも叶わない。
「可愛いな……」
背後から聞こえる言葉に、潤は羞恥心がこみ上げる。しかし、颯真の声が徐々に熱を帯びてきているのを感じる。そう思えば、自分の喘ぎはオメガとしてアルファを興奮させるものであるらしい。
自分でも驚くほどに甘い喘ぎだ。声が漏れるのは仕方が無いのだが、こんな声を出せるなんて思ってもみなかったと、どこか頭の冷静なところが評価を下している。
颯真の指が胸の突起を弄るのと同時に下半身に伸びてきた。潤の双丘の中にある、とぷとぷを体液をあふれさせるその場所をゆるりと探り当てる。
そう、その場所を触ってほしい。
期待に腰が揺れ、背筋がしなるのを感じた。
颯真はそのまま潤の背中にキスを落とす。背筋を舌でなぞられ、それが次第に首筋に上がってくる。上と下をいたぶられながら、潤はその舌の動きにも夢中になった。
「はぁ……ぁん」
身体中に与えられる優しく激しい愛撫に、声を抑えることなんてできない。発情期ゆえに素直に快楽を表現する潤に、颯真も満足げだった。
颯真の背筋に与えられるじれったい快感に腰がどうしようもなく揺れた。
颯真の唇が項に触れる。
潤はおどろき、とっさに首を振るような仕草を見せる。オメガの防衛本能だ。まさか颯真がその場所に触れるなんて思いもよらなかった。その真意を颯真も敏感に察したようだった。
「大丈夫だ。俺は噛まない」
その言葉を素直に信じ、潤は安堵する。兄だから当然だが、それでも彼はアルファだ。いつその本能に従って項を噛まれてしまうかわからない。潤のなかで困惑が広がる。
「お前が望まないことは、俺はしない」
颯真のアルファとしての真意は計りかねるが、その言葉は信じられた。普段の颯真は、嘘を吐かないからだ。
潤が小さく頷き、彼を受け入れる姿勢を示すと、颯真が肩口にキスをした。
「……お許しが出たな」
自分は颯真に抱いてもらう身だ。お許しなんて……と思う。
だがな……と颯真が言葉を続けた。
「潤、これだけは許してくれ」
不意に颯真が潤の首筋に口づけ、ずきんと痛みが走る。唇が離れると、潤は思わず庇うようにその場所に手を添えた。噛まれてはいなかった。
キスマークを付けた、と颯真が言い放つ。
「所有の証しだ」
満足げな声だった。
颯真が潤の奥に指を這わせ、一気に中に入り込んできた。
潤の意識は、一気に下半身に向けられる。
「あっ……、はぁん!」
突然の行為に、思わず声が上がる。
「はっあっ……!!」
背中がしなると、颯真もそのなかを大胆に指を動かした。内壁を撫で上げ、分泌液を絡ませるように指を動かす。淫靡な水音が潤の耳を刺激し、否応でも自分がアルファに内奥を弄られて乱れていることを自覚させられる。
「初めてだろ。しっかり慣らそうな」
もちろんそのとおりで、その場所にアルファの熱を受け止めることは潤にとって初めての経験だ。
なぜ初めてと分かるのかというのは、きっと野暮な質問で、颯真は、自分の男性としての性経験も、オメガとしての性経験も、当然のように知っているのだろうと、潤は思う。
背後からの颯真の攻めを受けるが、やはり姿が見えないというのは、潤にとって怖いものであった。
視界がにじみ始める。こわい。やできれば、抱き合ってしてほしい。
「そう……」
潤が、息も絶え絶えにかすれかけた声で呼ぶと、彼は面倒くさがらずに、潤に顔を寄せる。なんだ、と問われ、潤は、普段であれば自ら言うのは恥ずかしいと思うであろう一言を口にした。
「前……から、して……」
涙目の潤の懇願に、何か思うことがあったようだった。
「……怖いか?」
短く問われる言葉に、真意が伝わっていることを実感し小さく頷く。
「……ごめん」
「謝るなら俺の方だろ。昨日はやりすぎたな」
ごめんな、と颯真に言われて、腕を掴まれ身を起こされる。颯真の手が潤の腰を抱く。
「ふ……うん」
熱い吐息が漏れる。
「昨日は抵抗されると思ったから、背後からにしたんだ。まさかあんなに潤が身を委ねてくれるとは思わなかったからな」
確かに正面からあんなことをされたら、潤も素直に身を委ねたか分からない。颯真だって足蹴にされたら溜まったものではないだろうなと思う。
颯真は潤の腕を取り、身を起こさせてくれる。全裸になり、脚を投げ出す颯真の上に潤が跨がる。潤が颯真の首に腕を巻き付けて抱きつくように寄りかかる。
颯真の右手が、潤の背後にのびた。
「あ……ん」
小さく声を上げた潤を、颯真が応えるように指を奥に入れ込む。性感帯を刺激され、ふたりの間にある潤の性器がくっと力を持った。
「潤」
颯真の声に誘われて視線をやると、颯真がキスをしてきた。潤もそれに応じて、次第に夢中になっていく。
颯真の唇は気持がいい。いや唇だけじゃなくて、口……キスが気持がいい。
颯真の指はいつの間にか本数が増やされ、一本が二本となったようだ。ぐりぐりと押し広げるような動きが、刺激となって潤を高みに昇らせる。
「ふ……ん」
キスの合間に吐息が漏れる。
「潤、ホントに可愛い」
颯真も吐息が耳に届いた。双子の兄に可愛いと言われて、普段であれば複雑な気分になるところだが、今は、素直に嬉しい。それは、颯真が自分を情熱的に抱いてくれることを示唆する言葉であるからだ。
横になってくれる? と颯真が請う。颯真の愛撫から少し現実に戻った潤は目を開けて頷く。そのまま颯真はそっと潤を横向きに押し倒した。
一度は抜いた指を、潤の両脚を掲げて再び挿入してくる。
すでに先走りの液とオメガの分泌液で潤の下半身は体液にまみれている。颯真が少し大きく指を動かすと、くちゅくちゅと卑猥な水音がする。
「はぁ……あん」
潤は大きく胸を上下させて呼吸をする。
「潤……そろそろいいか」
颯真の声に、潤が目を開ける。颯真の下半身は大きくいきり立っている。大きく張り上がり、その存在を見せつける。颯真が潤の脚の付け根裏にそれを擦り付けた。
これがアルファの性器……。
同じ男性で、言ってしまえば双子なのに、こうも違うのかと思う。
あれが、入るんだ……。
そう思うと、心臓が高鳴る。歓喜なのか緊張なのかは分からない。ただ、未知の世界に脚を踏み入れるということだけは分かっていた。
あれが自分の中に埋め込まれる。それを考えただけで、潤は待てなくなった。
「そう……ま。きて」
潤が迎えるように、自ら脚を掲げて手で押さえる。おそらく自分の足許にいる颯真には、潤のデリケートな場所が丸見えだ。
潤が自ら身体を開く恭順の行為をしっかり凝視していた颯真は満足げに頷く。
「たまらない光景だ」
「……はやく……」
もはやアルファのものに貫かれることしか考えられなくなっていた。
颯真が潤の大腿の裏側に手を添える。その下に枕を当て、潤の脚を抱え持った。
「この場所がひくついてる。前も堅くなって、しんどそうだな」
もう潤の性器も射精間近で、ふるふると震えている。先走りがとろとろと流れて、素直な快感を伝えていた。昨日まで射精できなくて泣いていたとはとても信じられない光景だった。
颯真が潤のその場所を凝視して、自分の性器を当てたのを感じた。
「いいな。行くぞ」
颯真の最後の問いに、潤は目を瞑って小さく二度頷いた。
ぐっと何かが入ってきた。
「んっ……」
颯真は容赦がなかった。休むことなく、ぐいっと入り込んできた。
「くは……ああ」
痛みと衝撃があったが、それ以上の快感に酔いしれる。
颯真の指でも感じていた、あるべきところに嵌まる充足感が、半端ない。
「ああああああ……!」
ぐいっと奥まで腰を進めた颯真。割り開けられるような感覚に、潤は思わず何かにすがるために手を伸ばし、シーツを掴む。
今、僕のアルファの熱を受け止めている……。
そう考えたとたん、潤の中で止まらなくなった。
「あんっ……」
一気に快楽の階段を駆け上がり、性器は白濁の欲望を吐き出したのだった。
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