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 解放の瞬間と同じくして、下腹部に温かい液体がかかったのがわかった。颯真の性器を一気に挿入されたと同時に果て、自分の白濁で肌を濡らしたからだ。  快楽の階段を駆け上がり、息が上って苦しかったが、思わず自分の下半身を確認してしまった。  まさか入れられただけで達するとは思わなかった。  触れられもしないうちに、あっけなく。 「そんなに気持ちよかったか?」  完全に奥まで押し入った颯真が、楽しそうな表情で潤を見下ろしてきた。 「……」  潤は何も言えない。急激に羞恥心が沸き上がった。眉間にしわが寄るのを止められない。 「うー」  黙っていられず、両手で顔を覆い、口許を歪めて唸り声を上げた。いてもたってもいられない衝動だ。 「……どうした?」  口許の笑みを消さない颯真が問う。潤は何とも言えない気持になる。 「潤」  颯真が腰を突き上げる。すると腰の奥から快感が伝わり、口から甘い声が上がった。 「……だって。恥ずかしい……。僕だけ一人で盛りあがって……」  自分は決して、オメガがアルファに抱かれるということを甘く見ていたわけではないと潤は思う。ただ、オメガの発情期とアルファのヒートなんて、経験がないから想像がつかないためだ。  すると、颯真があはっと嬉しそうな声を上げた。あまり見かけない表情だった。 「お前が盛りあがるのは嬉しいよ。可愛いし、眼福だ。存分に乱れる姿を、是非とも見たいな」  颯真はそう言う。彼は未だに己の滾のったものを潤の中に収めたままだ。その言葉が予告のようにも聞こえて、潤は一人で焦る。 「潤が俺の腕の中で、果てる姿を見せてくれるなんて、最高に幸せだ」  その颯真の言葉がなにか深い意味合いがありそうで、潤は違和感を覚える。しかし、それを深く考える時間はなかった。颯真がぐっと押さえ込み、唇を寄せてきたのだ。   颯真の舌が、それを待つように口を開いた潤の中に入り込む。口腔内を吸い込み、愛撫をしかけるような、情熱的なキスを仕掛けてきた。  潤はそれに応じるだけで精一杯だ。  颯真の両手が潤の頬を包む。  気持がいい……。  キスって、どうしてこんなに満たされるのだろうと思う。  生理的な快感を覚え、さらに心も満たされているせいか、潤の視界が潤んできた。  名残惜しそうに颯真が唇を離す。潤は息を乱し呼吸を繰り返す。目に涙が溜まっていた。  潤は颯真を直視する。颯真の視線に晒されながら、目元に颯真の指が触れた。それに触発されて、堪った涙がはらりと肌を伝った。 「お前は与えられる快楽に素直であればいい」  颯真が潤元の涙を、唇で拭った。思わず目を閉じる。すると耳元で颯真が囁いた。 「……それがアルファに抱かれるオメガの特権だ」  自分はオメガで、彼はアルファだ。アルファに抱いて貰う身であるが、この快楽に身をすべて任せてもいいのだと思った。 「どれだけ乱れても、俺が受け止めてやるから安心しろ」  颯真の腰使いに、潤は乱されていた。  がつんと奥を突き上げられ、さらには敏感な内壁を擦り上げられる。そして、つるりと外まで出かかっては、奥まで突っ込まれ、その場所をこじ開けられる。 「は……ああっ……ん!」  タオルがほしいと潤は強請ったが、颯真は許してくれなかった。感じている声が聞きたい、快楽に溺れる顔を見たいと言うのだ。  実際に潤が口もとに指を添えて声を抑えると、それ以上に攻め上げるし、手のひらで顔を覆うと、前立腺を刺激される。しまいには「手癖が悪い」と自分を膝裏に手を導かれ、押さえていろと言われてしまった。  颯真が腰の下に枕を入れ込む。  颯真が、体勢、きつくないかと潤を気遣った。  潤も、涙に視界が濡れて颯真を見ることはできなかったが、小さく何度も頷く。 「ほら。潤の可愛いところが丸見えだ」  颯真がつぶやいた。  自分から確認できないが、おそらく、その奥蕾は大きく左右に広げられ、さらに颯真の猛りをずっぷりと受け入れているのだろう。  そう考えると、溜まらない。 「締め付けるなよ」  嬉しそうに颯真が呟く。それは無理だと首を思わず横に振った。考えただけで興奮してしまう。 「それなら、少し散らすか」  そう言うと、颯真は再び潤のささやかな性器に手を伸ばす。ふたりの肌の間で、堅く立ち上がるもの。  ローションを手にゆるりと握り込まれて、潤は啼いた。 「ああっ……」  颯真に触られているという事実を認識するほどに、腰の揺れが止まらない。 「俺に触られるの、好きなんだな」  颯真が呟く。  たしかに、颯真に触られるのは気持がいい…。触られただけでイキそうになるほどに。 「正直、昨日の“治療”は潤には酷かなと思ったんだ。でも、緊張するより身体が興奮していた」  潤は颯真の言葉をぼんやりとした意識で聞く。  そうかもしれない。颯真の指が気持ちよかった。見られていると思うと興奮した。触れられるだけで気持が良かった。主治医の手というより、アルファの手だった。 「俺の香りに反応しているんだろうと思うと、もう限界だった。潤を楽にさせたかったし、俺も楽になりたかった」  そして、颯真は発情期の潤を前に、ヒート抑制剤と飲まないという暴挙に出たのだ。  しかし、そんな話は今はもうどうでもよかった。  発情期に嗅ぐ颯真の香りがこんなに官能的だとは思わず、潤はそれに夢中だった。  「そうまの……かおりすき」  舌足らずに、喘ぎのなかから潤が言葉を漏らす。  すると颯真が嬉しそうに、笑みを浮かべた。 「知ってる」  そして颯真が続ける。 「俺も潤の香りが好きだぞ。……ずっとな」 「あああっ……!」  がつんと腰を奥に進め、それと同時に潤の性器の先端をくりっと抉った。  思わず腰が大きく揺れ、潤は二度目の絶頂を味わう。  大きく胸を上下させて、解放後のゆるりとした快感を味わう。  未だに潤の中に居座り、何度も潤に恍惚とした瞬間を見せる颯真は、腰をゆらして潤の中を堪能しつつ、左手では性器を弄んでいる。 「……手が辛いかな」  両膝を抱える潤の手が震えていることに気がついた颯真は、胸と性器の愛撫を止めて、潤に代わって膝裏を支え、さらに肩に抱えた。本格的に潤を追い込む体勢に持ち込む。 「あ…う」  繋がりが深くなり、思わず潤は喘ぎを漏らした。自分の中にあるものの大きさを感じてしまう。  改めて本能が感じている。中にいるのはアルファの猛り。そう考えたとたんに、オメガである潤は溜まらない気分に襲われた。その奥の秘所をぱつぱつに拡げられ、深く深く繋がるその行為に、自分の本能が理性を失わせる。  もっとほしいと思う欲望に支配される。  アルファの雄でぐいぐいと掘るように刺激され、追い立てられる。  でもそれでは、足りないのだ。  自分の中にアルファの猛りを、注いでほしい。 「……そう…まっ……」  喘ぐなかで呼びかける潤に、颯真が優しく応える。 「……ん? なんだ?」  視界が緩んでいる潤には自分を抱く相手の姿は見えない。だけど、その声にも少し余裕がなくなってきているのは敏感に察することが出来る。  それが、自分を欲していることだというのも。  オメガである自分と同様に、アルファも欲しているのだと感じて、潤は素直に欲望を吐露した。 「ほ、しい……」  辛い。早く注いでほしい。白濁で自分の中を満たしてほしい。 「何が、ほしい?」  分かっている。絶対に分かっているはず。それでも颯真は聞いてくる。潤には、そう恥じらう気持もすり減っていた。 「僕をイかせて……」  颯真ががつんと突き上げる。潤は、あられもなく声を上げた。 「あ……あう…。アルファの……ちょうだい」  それに颯真がどんな表情を見せたのかは分からないが、アルファの欲望に、潤は遠慮無くそのまま晒されることとなった。 「潤からのおねだりだからな」  ずぶずぶと音が聞こえるが、これはなんだ。潤は、下半身から聞こえる颯真の注挿の音に夢中になる。  口許になにかが触れた。思わず口を開くと、そのまま舌が入り込んできた。 「んっ……っ」  潤は身体を織り込まれたような体勢で、猛りと舌を受け入れる。それはとても気持がよかった。 「いくぞ」  颯真の腰が潤を追い込む。 「あああっ……そ……う」  名前を呼ぼうにも難しいほどの激しさ。潤は手を翳すと、それを颯真が握ってくれた。 「出すからな」  その予告に潤も何度か頷いた。颯真の攻めに潤も陥落寸前だった。 「ん……きて」  潤がそう頷くと同時に、潤の性器が白濁をとぷとぷと吐き出した。そのすぐ後に、颯真が小さく呻いて、潤の中にアルファの欲望を吐き出したのだった。  胎内に温かいものが流れ込むのを感じながら、潤はなぜか少し嬉しくて、口角を上げたつもりだった。  潤の頬に湿った颯真の手のひらが添えられ、颯真の唇が重なる。  あられもなく乱れ、果てた疲れのせいか、潤の意識は急激に底に落ちていった。

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