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潤が思わず縋るように颯真に問うと、彼は困ったように笑った。
「俺を煽るなよ。後悔しても知らないからな」
きっと颯真は自分の香りに当てられて言っているがゆえの発言と思っているに違いない。
潤の立場からすれば、愛する相手の香りに当てられて、こんなふうに介抱されてイカされて、縋らないほうがおかしいのだが、この気持ちを颯真に伝えていないのだから、届かないのも仕方がない。
本当は一歩踏み出すべきなのは分かっている。しかし、今の普通ではない状態では、彼がきちんと受け止めてくれるのかはもちろん、潤自身がきちんと思いを伝えることができるのか怪しくて、本音を口にできなかった。
身体は颯真の香りに煽られていて、気持ちは片割れから快感を与えて欲しくて。脳が沸騰するように必死に考える。どうすれば颯真がしてくれるのか……。
潤は駄駄をこねるように首を横に振った。
「……ヤだ」
「潤?」
「颯真、手伝って」
颯真の肩口で囁くように誘う。そして颯真の手を取り、手の甲部分にキスをした。その一部始終を颯真の視線が追っているのを潤は感じた。
颯真がふっと息を吐く。
「どうしよう、潤が可愛すぎる」
そう呟いて、颯真に身体を預ける潤の頬を優しく指が這った。
そのまま力が抜けかけた身体を颯真がそっとベッドに横たえてくれた。
引っかけられたようなワイシャツも優しく脱がせてくれて、ワイシャツにスラックス姿の颯真の前に、潤は一糸纏わぬ姿になっていた。
恥ずかしいと思うが、やはり頭もいまいち動いていないみたいで、成されるがまま、流されている。
「潤が盛られた媚薬と同じものを飲まされた患者さんの処置をしたことがある」
だから颯真はこんなに落ち着いているのかとどこかで納得する。
「松也さんは最低な人だけど、一応医者ではあるな。世の中は掃いて捨てるほど粗悪な媚薬は出回ってるけど、この薬は安全で、抜けたあとの後遺症も認められてない。盛られても抜けばいいだけだから、安心していい」
そう言われても、潤はそうなのかと思う。
そういえば、松也はどうしたのだろうと、今更ながらに潤は振り返る。それどころではなくて、うっかり忘れていた。
「でも、そのときは薬を抜くの何度か抜かないとならなくて、その患者さんは自分で上手く抜けなくて、しんどい思いをしていた」
颯真はそれを手伝ったの? と疑問に思ったが、一つのことを突き詰めて考えられない状態ゆえに、颯真の指が潤の胸をつーっと意味深げに滑り、そそり立つ突起を指の腹で転がされて、その疑問は容易に霧散した。
「は……あん」
「おそらく潤も、三、四回抜くことで頭がクリアになっていくと思うよ」
颯真は冷静さを失わずに淡々と語る。その間にも枕を潤の腰とベッドの間入れ込み、仰向けのまま脚を掲げさせる。自然を脚が開き、己の欲望に濡れた芯部が颯真の目の前に晒される。
やっぱり今の自分はおかしいと潤は思う。
そのどう考えても異常なシチュエーションに、興奮している。
「潤、可愛いな。また硬くなってきてる」
颯真が脚の中心部で起ちあがりつつある興奮に指を添える。それだけでも潤の腰がはねた。
「あっ……!」
颯真……と名を呼ぶ。颯真がゆるゆると刺激を与えながら、潤の顔を覗き込む。
「潤、可愛いね。ここ、食べていい?」
颯真が潤の返事を待たずに、手にしてたささやかな中心を口にほおばった。
「はぁ……あん!」
冷たい空気にさらされていた潤の性器が一気に熱いものに包まれる。それだけではない。うごめく熱い粘膜に自分の一番敏感な場所を攻められて、思わず腰が逃げをうつ。
しかし、颯真にすでに腰をがっつり抑えられており、快感からは逃げられない体勢に持ち込まれていた。
息ができない。
「そうっ……やめ……! ああっ!」
止めて、と訴えるが、身体は喜んでいる、はしたない本音を潤自身も思考の端で感じていた。もちろん颯真も心得ている様子で、口淫を止めることはない。
身体が得られる快感以上に、潤は安堵していた。嬉しかった。
颯真が舐めてくれるのだ。主治医だけの立場を崩さなかったら、絶対このようなことはしない。
颯真の口淫は情熱的で優しくて、ともすればいろいろなものがふっ飛んでしまいそうだ。
しかし、その瞬間が近づいてきて、さすがに潤が焦る。
「そう……あっ……や、くる……! はなし……て!」
脚をばたつかせて颯真を引き離そうと本能が動く。もう達してしまう。颯真の口の中で。
颯真はばたつく潤の脚を押さえるために、脚の付け根をさらに開かせる。
「っ……!」
「大丈夫だから。俺の口でイけ」
そう言って、その先端を舌でぐりっと抉った。
「あっ……ああ!」
思わず声が漏れ、潤は颯真の口腔内に二回目の欲望を吐き出し、颯真はそれを飲み込んだ。
「俺的には絶景だから頑張って」
放出の余韻で弛緩する脚を、そのまま広げたまま掲げ、颯真が休む間もなく手を伸ばしたのは、その奥の場所。先程、診察のために指を這わせた場所だった。
「体勢辛くない?」
そう気遣ってくれるから、潤は快感で止まらない涙と口からあふれる涎にまみれた顔を覗き込まれて、思わず腕で顔を覆った。
「だーめ」
颯真が容赦なくその手を外す。
「俺に見せて。声も抑えたらだめ。潤のその顔がとてもエロい。声もそそる」
左右に大きく開いた脚の合間から颯真が顔を出し、その優しい眼差しが潤の目を捉える。
「俺を誘惑して」
潤が両手をかざす。するとそれに応じるように、身を起こした颯真が、潤の身体にのしかかってきた。
「もう少し頑張ろうな」
そう言って、冷静な颯真の指が、潤の局部をゆるゆると刺激し始める。
「そ……うまっ」
新たな刺激に潤は戸惑うが、目の前の颯真は瞳に優しい光をたたえている。
「大丈夫。入れたりしないから。でも、少し広げて気持ち良くなろうな」
颯真が耳元で囁く。耳を甘噛みされ、身体がしびれる。そして、その余韻に浸るまもなく、下半身からは颯真の指が、硬いままの潤のその蕾に指をかけたのが分かった。
先程のように、ぐるりと撫でられて、もう性器が軽く芯を持ち始める。
颯真は無理矢理にこじ開けることもなく、少しずつ指を入れては慣らすようなじれったいような動きを見せる。
ローションを纏った指が、くちゅっと湿った音を出した。
痛烈な快感ではなくゆるりとした心地よさで。しかも、それを好きなアルファがしているというのが潤の安堵感に拍車をかけていた。
「潤が幸せそうな顔をしてる」
颯真の呟きに、思わず潤は小さく頷く。たしかにそのような気持ちになること自体があまりなくて、自然と柔らかい優しい気持ちになる。
それは間違いなく目の前にいるのが颯真だから。
「颯真が……」
潤も呟く。
「俺が?」
「……触ってくれるの、嬉しい」
潤が颯真の背中に手を回した。
もっと密着してほしくて。
腰が揺れるのが止められない。
あんなに拒絶したのに。でも、結局自分は、颯真の香りで発情して、颯真の手で絶頂まで上らされて、幸せで快感を得ている。
颯真がくすりと苦笑を漏らす。
「素直だな。まずい、俺の理性が弾けそうだ」
颯真の指が、慎重に潤の硬い蕾をほぐすように、マッサージしながら指を入れ込む。その快感と衝撃に潤が小さく声を上げた。
「はあっ……ん!」
気持ちが良い。もっと奥に欲しい。
思わず腰が揺れる。
颯真が出し入れをする指が少しずつ大胆なものになってくる。
「潤がおねだりしてくれる……」
颯真のその言葉に、潤は少し熱を感じる。
潤もそれに呼応して腰が揺れる。本能の動きは自分の意志で止めることが難しい。
「潤が、可愛い」
颯真がそう褒めてくれる。颯真の潤を責めたてる指と快感がマッチして、潤は快楽の虜となり放出の階段を駆け上がる。
颯真が、潤の中にあるその快感のポイントをぐっと刺激したと同時に、潤は、颯真の名前を呼びかけて、達した。
白濁が潤の肌を濡らすと同時に、潤の身体から力が抜けた。
と同時に、それまでずっと芯を保っていた潤の欲望も力なくだらりと、肌に寄り添った。
颯真の指が、自分の敏感な場所から抜けていくのが分かる。
「あん……」
もったいなくて恋しくて、求めるように腰が揺れる。
颯真が潤の髪を梳いてくれる。
「大丈夫か?」
小さく頷く。
大丈夫だったから、また抱いてくれる?
しかし、その前に潤には颯真に伝えないといけないことがある。
でも、もうそのエネルギーは残っていない。
身体がどうしても休息を求めている。
「颯真に言わないと……。でも……眠い」
颯真の瞳が優しい。
「頑張ったからな。俺はこのままいるから寝ろ」
「そう……ま。僕が、起きたら、僕を抱いて……」
逸った言葉に颯真が笑みを浮かべる。
「お前が何を望んでいるのかは分かってるよ。正気に戻っていたら、いくらでも……」
兄から望む答えが得られて、潤は安心して眠りの淵に落ちていった。
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