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「ふふ。恥ずかしくなった?」
颯真が潤を抱き寄せて、楽しそうに問いかける。
確か自分は発情期であったはずだが、先程に比べても少し症状が治まっている。意識もはっきりしている。それは、颯真の香りに満たされて、慰めて達したためなのだろうが、颯真の香りは変わらず感じてはいる。
発情期の初期にこんなに感じてしまうのであれば、自分はどうなってしまうのだろう……。
「は……、恥ずかしいよ! だって、颯真から連絡がこなくて……寂しくて……」
そう言い募ると、颯真が慰めるように背中をさすってくれた。そして、やさしくゆっくりジャケットを脱がせてくれる。
抱擁を解くと、颯真が優しく問いかけた。
「残りは俺が脱がせていい?」
それがその先を予感させて、潤は俯いて頷いた。
了解、と颯真が頷いた。
するりとネクタイが解かれ、ワイシャツのボタンが外される。
不意に、颯真の手が止まった。潤の首筋に装着された黒いチョーカーが目に入ったのだろう。あまり着け慣れない場所にあるのだから、違和感があるのだろうと潤も思う。
潤は颯真を気遣う。
「大丈夫。結構柔らかい素材で、通気性も速乾性もある生地なんだって」
そんなに負担になってないから気にしないで、と潤は言った。
颯真は何も答えず、しばしの間潤の胸に顔を埋め、そして首すじにキスをした。ちくりと少し痛みがして、首すじを噛まれた感じがあった。
「あっ……。もうー」
チョーカーの上あたり。完全にワイシャツで隠れない場所だ。
無言で潤が颯真を責めるように見るが、颯真は悪びれない表情。
「これから一週間はずっと一緒なんだ。服を着る間なんてないからな。身体中に付けるからな」
そう言われて顔がかーっと紅潮したのがわかる。これから一週間はずっと颯真だけを見ていられる、颯真が自分だけを見てくれる幸せな時間なのだと改めて実感した。
「うん……」
潤は颯真に抱きつく。首筋に鼻を寄せて、颯真のフェロモンを堪能する。ワイシャツ越しでも颯真の香りはわかる。身体を疼かせるこの香りが好きだ。安堵していられるし、ずっと感じていたい。
「かわいいな」
颯真がそう呟きながら、手際よく潤のワイシャツとインナーを取り払い、気がつけば全裸になっている。
颯真はまだジャケットを脱いだだけ。
自分だけ、とは思うが、また思考回路が朦朧としてきたのか、あまり気にならない。
颯真が帰ってきて、彼の香りに触れて、再び理性を手放そうとしているのが分かった。
颯真が全裸の潤を優しくベッドに横たわらせる。そしてその上にのしかかってきた。
「俺がいない間、自分でやった?」
耳元でそう囁かれ、少し硬くなりつつある潤のささやかな性器に触れられる。潤は思わず身体を震わせ息を呑む。
「さっきから潤の香りがすごい。あと、ここも結構濡れてる」
ぬらぬらと濡れる性器に触れたあと、指はその奥へ。脚を少し曲げられて、その場所に触れられる。
「んっ……」
おもわず、颯真の腕をつかむ。
本音では颯真に触れてほしい場所なのだから、その興奮はどう繕っても隠すことはできない。颯真が嬉しそうに呟いた。
「潤が嬉しがってる」
そう言われると、猛烈に恥ずかしい。そんな理性はまだ残っている。颯真にずっと見つめられ、潤は耐えきれなくなって、先程のワイシャツで顔を隠した。
「あ……ん」
確かに、その奥の場所に、颯真の指がなんの違和感もなく入ってきたのがわかり、その存在を自覚した潤が満たされた感覚で嬉しくなって、掻き回すように動く颯真の指に応えるように腰が反応してしまっているのだ。
「そう……まぁ」
潤が羞恥に濡れた声を上げ、そのワイシャツをのける。すると、楽しそうな颯真の表情があった。
「俺も嬉しいんだよ、潤」
不意に颯真の指が潤から抜けて、手を取られる。そして導かれたのは、颯真のアルファとしての象徴。
スラックスの上からでもわかる。いつの間にか硬く、大きくせり上がり、その存在感を増している。
颯真が自身のベルトを外す。潤の手がボタンを外し、颯真がスラックスをずらして、潤の手が、欲望を覆うボクサーショーツを下ろすと、颯真の硬く反り上がったものが解放されて、ブルっと出てきた。
「大きい……」
そのシンプルな感想に、颯真が苦笑を浮かべた。
自分のささやかなものとは比べ物にならないアルファの性器に潤は目が釘付けになる。潤、と颯真がそれを見せつけると、潤はそれに触れた。熱くて、太くて……、そして愛おしい。
これが、自分の中に入り込み、かき混ぜて 愛してくれるのだと思うと、逸るような疼きを覚えて、たまらない気分になる。
潤は、颯真自身を握り込んで、優しくやわやわとさすり上げる。颯真が息を詰めるのが分かった。こんな拙い行為にも反応してくれる自分のアルファに対してとても愛おしい気持ちになった。
耳元では颯真の悩ましいほどの息遣いを感じる。
「ねえ、潤の中に入っていい?」
興奮したアルファの誘いに、潤は頷いて、誘われるように自ら颯真の下で脚を広げて、彼を受け入れる姿勢を見せた。
颯真自身は余裕のない様子だったが、それでも潤の腰の下に枕を入れて、脚を広げさせその場所を空気に晒した。さらに、覗き込んで指を入れて優しくほぐしてくれた。発情症状が現れてきて、そこまでの拡張は必要ではないのだろうが、潤の身体を気遣ってきちんと拡げる。
その間、潤はその行為に興奮し、後ろで指を食んではキュンキュンと締め付けつつ、前の部分は硬く熱くたぎらせた。
それだけで潤の視界は快感で濡れ、脚の間にいる颯真の姿がよく見えない。
「……そ、そう……ま」
手をかざすと、颯真は面倒くさがらずに手を取り、ちゃんと聞いてくれる。自分の身体は颯真にのしかからて体勢的に辛くなったが、それでも颯真を抱き寄せた。颯真の身体の熱と香りに潤は朦朧としはじめる。
「はやく。僕、……欲しい」
そう耳元で囁く。
颯真が何も答えず、でも首筋にキスをした。
そのまま、薄膜を装着した颯真が、潤のその場所に猛りをあてた感覚がした。
「いくぞ」
「あっ……」
思わず声が漏れる。それは痛みではないものだが、颯真が少し怯んだ気がした。
「へいき、だから……」
潤がそう言い訳する。
「辛かったら言えよ」
颯真はどこまでも気遣ってくれる。しかし潤の本能は、自分のアルファに激しく奥まで突いてほしいと言っている。
「もっと……きて」
颯真が笑みを浮かべる。
颯真が潤の唇を求めてきた。クチュクチュと唇と舌で唾液を交歓するように口づけを交わすと、気分が一層盛り上がる。
いくぞと颯真が予告して、がつんを潤の奥まで自身を埋め込んだ。
「ああっ……!」
ずずず、と肉を割って押し入ってくるアルファの感覚に、潤の腰が揺れる。
その勢いを強烈な快感に、潤は全てを持っていかれる。
背筋がしなるほどに快感が駆け抜け、張り上げていた潤の性器は颯真に突き上げられて、簡単に白濁を散らしたのだった。
はあはあ、と潤の息が上がった。
颯真を受け入れた衝撃と達した興奮で息が上がる。颯真の胸の下で息をかろうじて整えていると颯真が嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ふふ……」
快感と虚脱感の中で、虚になっているだろう視線を颯真に向ける。
颯真の目が煌めいている。
「お前、俺が挿れたらイクのクセになってるな」
そんな指摘をされて恥ずかしくないわけなくて。潤は思わず颯真を抱きしめた。
颯真が嬉しそうに笑いをこぼす。それをとんとんと背中を叩いて抗議した。
しかし、言われてみればそのとおりなのだ。いつも初めて颯真を受け入れる時は、自分のアルファが全てを捧げてくれている実感があり、そしてたらないピースが嵌まったような、満たされた気分と快感が同時に襲ってきて、簡単に達してしまう。
ただ、挿れられるだけで達してしまうなんて。
「……僕……お手軽かな」
そう自嘲すると、そんな訳ないだろ、と颯真が即座に否定した。
「俺にとってはお前を抱くたびにご褒美をもらってる気分だ。
その素直な反応が本当に嬉しい。幸せだ」
慰めでもなく本音のようで、颯真の視線が優しい。キスを求められ、舌を交わして、潤は唇を重ねる。颯真を受け入れると、深く深く、唇を交わらせ、唾液と舌を絡ませて、交歓する。唾液が糸をひくくらい、くちゅくちゅと交わったあと、颯真が唇を離して、真剣な眼差しが潤の胸をうつ。
「愛してる。潤」
その真摯な告白に、潤も「僕も」と答えた。
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