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 その後、発情症状に一気に呑まれ、潤自身はあまり記憶がないのだが、颯真によると一晩中颯真を求めていたようだった。  巣として無意識のうちに集めた颯真の衣服は、交わっているうちに寝室の床に落ち、それがベッドを囲い、新たにアルファとの巣を形成したようにも見えたという。  しかし、当の潤はそれどころではなく。  ひたすら、颯真の香りを求め、颯真自身を求めて快楽に従順になっていた。  颯真を前から受け入れて、二度果てた後、まだ足らなくて、背後から。それまでは颯真の姿を確認しながら、あやされながらでないと背後から受け入れるのは怖かったのに、いつの頃からか、彼を受け入れることに恐怖がなくなっていた。  その香りを颯真だと認識できたからだ。 「あん……。そう……ま」  再び挿れられる時に、それまでとは全く違う角度から攻められて、快感を大きく拾ってしまい、潤は再び挿入のタイミングで艶やかに鳴いて達してしまった。想像以上の生理的な快感に襲われ、身体を愉悦で震わせ、こわいと泣きながらも身体は颯真を求め続けた潤を、颯真がやさしく宥めて、さらに前を揉みしだき刺激を加えつつ後ろを突き上げてくれて、一緒にイッた。  ……らしい。すべて聞いた話。  発情期は、フェロモンの影響を受けているといっても、ずっと発情しているわけではない。ある程度欲を発散すると、少し正気に戻る時間がある。  フェロモンに理性をも支配されていた潤が、僅かに正気に戻ったのは、明け方のこと。 「今回はゆっくりゆったり二人の時間を楽しもうと思ったのに。お前が飛ばすから、朝風呂になったな」  目の前ではまんざらでもないという本音を全く隠さず、颯真が苦笑していた。潤は赤面の至りで、湯船に浸かる颯真の脚の上に座り込み、正面から抱き付くように湯船に浸かっていた。  いつもはこのように向かい合って湯船に座るのは顔が近すぎて恥ずかしのだが、やはり発情期の影響だと思うが、少しでも近くにくっ付いて颯真を見て安心していたいという欲望の方が勝る。  潤、と声をかけられて、注意を向けられる。  潤んだ顔が、颯真の力強い視線に晒される。 「少し目がまともになってきた」  颯真がそう言った。いわく、深夜から未明にかけて、かなり濃厚に発情期のフェロモンが暴走していたようで、颯真からいろいろと搾り取るように潤ががっついていた、というのは、聞かされた話から容易に想像できる。  すべて伝聞だ。 「やめてー。僕、本当に記憶にないから」  潤は恥ずかしくなって耳を塞ぐ。自分の痴態は正気の時には恥ずかしくて聞けない。例えそれが発情期だと言われても無理だ。  すると颯真は潤を腰を引き寄せ、抱きしめた。 「いいんだ。俺の前だけなんだから。それがそそる。記憶なんていくらでも飛ばせばいい。俺が覚えていればいいんだ。お前の欲望は全部俺が受け止めてやる」  その言葉に、潤は思わず笑いがこみあげた。 「和泉先生が、発情期は二人で乗り越えるもの、って言ったじゃん。僕だって、颯真の欲望を受け止めるよ」  すると颯真は潤を挑戦的な視線で見上げてきた。 「言ったな?」 「言ったよ?」  ならば、と颯真が潤を自分の身体から離し、ちょっと立ってと言って、浴槽に腰掛けさせた。 「足開いて?」 「ええ?」  こんな明るいところで? と戸惑う潤に、颯真が有無を言わさずに片脚を浴槽の縁に掛け大腿を広げさせ、潤の柔らかく身体に沿う中心部を手にした。  潤にしても、なんとなく予測していた事態だが、好きなアルファに正気の時にもかかわらず、全てを晒し、さらに触られているという、その行為だけで刺激が強く、思わず息を詰めた。 「潤のココは可愛いよな」  しみじみと颯真が言う。潤は少し口を尖らせた。 「小さいってこと?」  違うよ、と颯真は笑う。 「素直ってこと」  ゆるゆると刺激を加えていた颯真の手が、いきなりぐっと大体を押し開いて顔が近づき、そして潤の中心部は彼の口腔内へ。  ぱくりと口に含まれて、その衝撃に潤は思わず身体を仰け反らせた。 「あっ……!」  颯真、と名前を呼ぼうとして潤は甘い声を上げる。  浴室に濃密な音と喘ぎが響き渡る。ねっとりと絡みつくように颯真の口が潤自身を愛撫する。熱い口にゆったり含まれ甘く噛まれ、唇で先端の方をふにふにと刺激させれて潤は身悶える。下半身に熱が集中し、刺激に慣れていない潤の性器はすぐに硬くなる。 「やっぱり、可愛い」  口に含まれたままそのように呟かれ、息づかいと声の震えと歯の刺激をダイレクトに受け、潤は密かに身体を震わせ、爆ぜるのを辛うじて耐えた。  颯真の口で中心部をねっとりと愛され、袋まで刺激されて素直に快感を拾った潤のフロント部分は、敢えなく大きくそそり立った。  そうなるとオメガは後ろも疼いてくる。欲を解放したいと思っているが、それは颯真の手による刺激より、彼を中に迎えて一緒に達したいという欲望の方が強い。発情期とはそういうものであるらしい。 「そうまぁ……」  潤が颯真を求め、抱きしめ合って、キスを交わす。最初は唇を合わせるだけ、そして少し口を開けて求めると、颯真の舌が入ってくる。  そうなってしまうとなかなか離れ難い。しばらくは颯真と一緒だし、唇が腫れるくらいキスをしても問題はないけど……、腫れた唇を颯真に見られるのは嫌だなぁと潤は思った。 「潤。後ろから、挿れていい?」  颯真が、ギラついた目を湛えて至近距離で聞いてくる。息が熱い。  少し余裕もなさそう。潤が頷くと、颯真は身体を離し浴室の壁に潤をよりかからせる。尻を突き出すような姿勢を取らされると、颯真が怖くないよと、背後からあやすように前の部分を慰さめてくれた。  腰を手で支えてくれ、颯真が覆いかぶさるように潤の中に入り込むのがわかった。 「あっ……」  思わず声が上がった。立ったまま受け入れると少し角度も得られる快感も違うみたいで、ぞわぞわと入り込んでくる颯真自身が、いつもよりも明確にわかる感じがする。脚が震え腰が動いてしまいそうなほどに快感を拾いつつ、颯真にぐっと腰を掴まれて一気に挿れられる。 「ああ……っ」  漏れる声が甘いものであると判断したのか、颯真の手が潤の敏感な胸の突起に移動する。と同時に首筋を噛まれた気がした。  颯真が昨夜から、首筋のあたりをしきりに気にしているのはなんとなく潤にもわかっていた。和泉に装着されたチョーカーが気になっているのだろうが、理性と本能の狭間で項を噛みたいという欲求と戦っているようにも思える。このチョーカーを装着していれば項を噛まれることはないのだが、この辺りに跡を付けてもらえるのは、潤にとってもこの上ない喜びだ。 「潤、潤……」  颯真が背後で、腰を振りながら名を呼ぶのが聞こえた。でも、潤も応えることができない。背後から与えられる快感に耐えるのが精一杯で、陥落寸前だ。  颯真の香りがすごい。潤は迷うことなくその香りに身を委ねる。もう、目の前にいるのは、自分を唯一の番として生涯愛すると誓ったアルファのみ。  今は、そのアルファの精を受け止めるだけの身体と成り果てている。 「颯真……、きて」  潤の誘いに、颯真がひときわ高く突き上げる。  潤は、小さく鳴いて何度目か分からぬ白濁を散らし、颯真も小さく呻いて潤の中で果てたのだった。

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