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少し湯あたりしたのかもしれない。
浴室で果てて、かろうじて颯真に抱きかかえられて風呂から上がったものの、バスローブを身に着けたまま潤はリビングのソファで横になっていた。
潤はぼんやりとリビングルームの天井を見上げる。窓の外が明るくなり、街が動き出す頃。普段であれば、すでにスーツに着替えて颯真とこの部屋で朝食を摂っている時間だ。
でも、今日はがらんとしていてリビングも少し寂しげな雰囲気。
水分もちゃんと摂っておけよ、とイオン系飲料のペットボトルも渡されたが、少し飲んで挫折した。気持ちがいっぱいいっぱいで飲みきれない。ペットボトルをソファーの下に置き、バスローブの襟元に顔を寄せて、肌触りの良いパイル地を堪能する。思わず息を吸い込んで、ふがふがして癒される。
普段、潤にはバスローブを使う習慣がない。ホテルのアメニティで使ったことはあるのだが、心許なくてあまり好きではないのだ。さっさと下着とパジャマを身に着けて安心したいタイプ。
ところが先日、颯真が突然お揃いのバスローブを買ってきた。驚く潤に颯真は言った。発情期になると、パジャマや部屋着も面倒になるだろうし、気軽に羽織れるものの方が良いだろうと。
その時は全くピンと来ず、映画みたいだね、などと下らないことを言ったのだが、確かに片割れの言う通りだった。不思議なものだが、そもそも今は身体を締め付ける下着を着けたいと思わないし、全裸の上から羽織れるのはとても便利だ。そして、ふわふわのパイル地は温かくて、肌に沿うように柔らかくて気持ちが良い。さすがの見立てだ。
潤がこのリビングのソファで横になっている間、颯真は一人で自室のベッドのリネンを交換している。
症状も落ち着いているし、手伝うと言ったのだが、またいつ発情するか分からないし、少し休んで体力は温存しておけとアドバイスされた。発情症状があるのに体力がないと、自分で熱を発散することも辛いものになるという。それほど本人の体調にはお構いなく、本能のままに発現するのが発情期なのだろう。
確かに、経験からみてもイきたいのにイけないことほど辛いものはなかった。自分で行うことができなければ、以前のように医療行為として、前後を刺激して発散させることもあるというので、潤は震え上がって、専門家の言うことは聞いておこうと素直に従った。
服も散らかしてしまったし、片付けるの大変だろうなと申し訳ない気分にもなる。
……でも。
あの颯真が、爛々とした眼で自分を見ていた。ベッドの周りに散乱した服を見た時。
あんな眼は見たことなかった。
その艶やかで色気を帯びた眼の色に息が詰まり、そして、あんな眼をさせているのが自分であると自覚して、自分の中のオメガの部分がじわりと潤んだ。
あれは自分のアルファが自分だけしか見ていないという喜びというより、独占欲を自覚して、胸が熱くなった。
颯真のようなアルファを自分のものにして、縫い止めることができていることを確認して、満足している。そして、颯真はすぐに、たぎるものを挿れてくれた。それが自分に夢中になっている証左と思えて安堵した。
アルファへの独占欲は、今回の発情期でかなり強くなった気がする。颯真が近くにいてくれると、香りが分かって安堵するが、姿が見えず気配と香りが確認できないと途端に不安になる。
「そうま……」
天井を仰いで片割れの名を呟く。どうしよう、名を呼んだだけで切ない気持ちが胸の中にこみ上げ、身体が熱くなってきた。
熱を逃すために、深く深呼吸をした。
潤はパイル地に包まれたまま、脚を曲げて身体を少し丸める。
先ほどまでの自分のアルファの姿が蘇る。浴室で切なく名を呼ぶ颯真の姿。颯真の香りに身を委ねて、彼の熱情を受け止めた。
互いの名前を呼びながら求めながら達するのは、身悶えするほどに甘くて、胸が締め付けられるほどに嬉しくて。例えようのない多幸感に包まれる。
颯真の姿を思うだけで、身体が熱くなる。これは発情か恋心か。さっきまで散々颯真に見られて指を挿れられて綺麗にしてもらった奥の蕾が潤いを帯びる。もう理性なんて随分前にすり減っているのだからと、指をパイル地の間に滑り込ませ、潤った場所に躊躇いもなく指を埋めた。
「ん……」
やはり飢えているんだと思う。さっきまで浴室で抱き合っていたにもかかわらず。自分の指でも快感を拾ってしまう。これが颯真のものだったら……と想像して、性懲りも無く身体が快感で震えた。
「あっ……あ」
明るいリビングに艶やかな声が漏れるのを止められない。広げる必要もないくせに、拡張行為を繰り返す。
しばらくすると颯真がリビングに戻ってきたようで、潤の身体にのしかかる。笑みを浮かべていた。
「一人で楽しそうだな。ところ構わずだ」
いきなり身体を抑えられて、潤は驚くが、相手を認めて潤はこくこくと頷いた。
「こんなところまで尖らせて……」
バスローブからはだけて空気にさらされていた胸の突起を丹精な指で摘まれる。
「あっ……!」
思わず声が上がる。衝撃で身体を震わせるが、それが快感からきているものと片割れには判っているようで。
潤は無意識に脚を思わず擦り合わせていた。
「どうしてほしいんだ?」
颯真の余裕をみせる問いかけに、潤は颯真を見上げた。繕う余裕などない。もう快感で視界が潤んで、片割れをしっかり視認することができない。
「そう……ほしい……よぉ」
素直に欲望を口にすると、颯真は潤の首筋にキスをして耳元で囁く。それがまたくすぐったくて官能が呼び起こされる。
「こんな明るいところで?」
背筋が快感に揺れた気がした。煽るようなことを聞かれて、潤は頭を伏せたまま何度も頷いた。目からはポロポロと涙が落ちる。でも、ちゃんと答えないと、次に進んでくれなさそうな気がして。自分に余裕がないことはわかる。
「うん、うん。今……ほしいの」
甘く強請る。潤が颯真を抱きしめて、その首筋に自分にしてくれたようにキスをする。
「いれて……」
颯真が抱擁を解くと荒々しく潤のバスローブをはだけさせ、そのまま脚を掲げて、正面から潤の中をぐっと穿った。
「ああっ……!」
いきなり求めていたものがすべて埋まる快感に、潤は甘い声を上げた。明るい朝のリビングで、ソファの上であられもない姿で颯真を受け止めている。ベッドを整える間さえ待てない、動物のような行為。
颯真がずぶずぶと抽送を繰り返す。がつんと突き上げては、緩く引く。勃ちきったアルファの大きな象徴で胎内をかき回されて、潤は理性が弾け飛びそうになる。
「あ……ぁ、そうま」
喘ぎのなかで思わず手をかざすと、颯真の温かい手がそれを取り、口づけを施す。そして指同士を絡ませた。
「うん。いくらでも。俺の……潤」
颯真が、自分の欲望を満たすように、激しく体を揺さぶる。颯真の愛撫によく応え勃ち上がっていた潤の愛らしい屹立は、翻弄され揺さぶられるまま達し、とろとろと白濁を漏らす。さらに颯真も果て、長い時間、その胎内にアルファの精を受け止めたのだった。
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