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 リビングに熱い息遣いが二つ。  颯真の猛りを受け止めて、潤はぐったりと横たわった。 「大丈夫か」  精を注ぎ切り、颯真が組み敷く弟を気遣う。 「もう……発情期はキリがないな」  そう苦笑するが、潤は声に出すほどに息を整えられず、笑みを浮かべて応えた。  だけど、幸せで満たされた気分であることに変わりはない。 「潤がそんな顔をしてくれるのが嬉しいな」  そうしてキスを落としてから、ずるりと、颯真が潤の中から出て行こうとする。  しかし、潤は颯真の腕を掴む。両脚でぎゅっと颯真の身体を締め付けてしまった。まだ離れたくない。 「やぁん……」  すると、颯真がくすりと、嬉しそうな笑みを漏らした。 「平気か? 体勢辛くない?」  両脚を大きく開げられ、颯真を受け入れている体勢は正直しんどいのではあるが。  それが伝わっているのだろう、颯真は己を嵌めたまま潤の手を取り、背後から貫く体勢に変えてくれた。ソファに二人で横になる。温かい手が、潤の腰に回った。  自分の中に颯真が居てくれる安心感に、潤は甘い吐息を漏らした。 「……このバスローブ。いいね。気持ちいい……」  先ほどまで一人で肌触りを堪能していた。潤の言葉に颯真からは弾んだ反応が聞こえた。 「喜んでもらえてなによりだ」  潤は半分以上はだけてしまったバスローブを口元に寄せる。発情期前は颯真の前で全裸になることにかなり恥ずかしさはあったはずなのに、このわずかな間でかなり曖昧になってしまっている気がする。 「自分がこんなに開放的な気分になるなんて、思わなかったな」 「開放的、って、ここが?」 「ん……ぁ。……うん」  繋がっている場所を、腰でくいっと突き上げられて、思わず声が漏れた。  背後から苦笑する様子が見てとれる。そこだけじゃないんだけど……。 「それが発情期だからな。  特別室に入る時はみんなそんな感じだから、バスローブを持ってくる人も多い。患者さんから教えてもらったんだ。パジャマや病衣は嫌なんだって」  そうか、と潤は納得した。アルファ・オメガ科の特別室はオメガが一人で発情期を過ごす場所だ。快適に過ごすコツがいろいろとあるのだろう。 「発情期なんてあまり経験してないから、そんなこと考えもつかなかったよ」  潤がそう言うと、颯真にチョーカーを少しずらされ、首筋を舌で舐め上げられた。  腰から上に、走るような快感が上り、潤は鼻から抜けるような熱い息でそれを逃す。颯真の心地よい香りが嗅覚に触れる。うっとりして、再び官能の波に巻き込まれそうだ。 「それでいい。お前はこれから俺と一緒の発情期だけ過ごせばいいんだ」  そして再びキスマーク。このまま幸せで溶けてしまいそう。  颯真が首筋をちろちろ舐めてはキスをくれる。もういくつ跡がついているのか。噛まれた記憶もあるから、結構な数になっている気がする。  アルファはやはり発情期のオメガの項に執着するのかもしれないとぼんやりと思う。颯真は今、ヒート抑制剤を服用していないから、なおさらそれが顕著に出ているのかも。  すると、くちゅりと下半身が潤んだ音を立てる。 「あっ……」  思わず声が漏れる。颯真が潤のフロント部分に手を伸ばし、さらに腰を突いてきたのだ。アルファの長い吐精を経ても、潤の中にいる颯真の質量は変わっていない気がする。  颯真が放つ、強く官能的な香りに煽られて、潤の腰も自然と揺れ始める。  発情期は本当に際限がない……。 「ん……っ」  颯真にもっと中を掻きまわして欲しくて、腰を揺らしながら甘い声が漏れる。それを颯真も分かっている様子で、潤の左脚を開かせて大きくグラインドした。 「あっ……!」 「潤。……もっと……もっと声を聞かせろ」 「……そうま」 「はぁ……番にしたい」  颯真の呟きに、潤も、僕もと答えた。なんで発情期なのに番になれないのだろう。こんなに互いを求めて、必要として愛し合っているのに。 「あ……ぁん」  何度か突き上げて、颯真が小さく呻いて再び果てる。  潤の中には再び、アルファの熱い精が注がれた。颯真に背後から抱きしめられ、颯真が執着を見せる首筋にキスを受けながら、潤はひたすら白濁を胎内に注がれ続けた。身体中から汗が吹き出し、左脚はもうガクガクで、体力も限界……。 「颯真……、眠い」  潤が小さく呟く。  すると、その小さい声もきちんと聞き取った颯真は、汗ばんだ腕で抱き寄せてくれた。 「いいよ……。少し、休んで」  そう言って優しいキスを頬に落としてくれたのだった。  潤が目を覚ました時、一瞬、ここがどこなのか判断がつかなかった。  最後に意識を手放したのは、どこだったっけ……。  どうやらバスローブを身に着けて、颯真の部屋のベッドで、彼に向かい合って抱かれながら寝ているみたい。ぼんやりと目を開けると、白いバスローブが目に入る。颯真の胸が、呼吸音に合わせて安らかに動いているのが分かる。  ソファでの営みを契機に、颯真のヒートが暴走した。その後、詳しい時間はどのくらいだったのか分からないが、一昼夜くらいベッドの中で愛を交わしあっていたように思う。交わって達して、少し冷静になると、抱き合って互いの体温に安心して寝て……。  起きてまた、お互いの身体を貪りあうということを、何度も。  いつも気が付けば颯真が隣にいてくれて、時間など全く気にせずに求めれば満たしてくれる。それは、とても幸せな時間だった。  本能だけの獣になったようでいて、抱かれて愛を囁かれるたびに、これまでも溢れかえるほどだった颯真への愛おしい気持ちが、さらに増えていく。  本能で颯真を求め、獣のようだと思いつつも彼の精を絞る一方で、彼への愛情が増していくことを実感することで、これは人間の営みなのだと潤は感じた。 「……ん……。起きた……?」  潤が身じろぎしたので気が付いてしまったようだ。颯真がぎゅっと抱きしめた。  温かい。 「……おはよ。……なのかな?」  潤が苦笑した。今は何時なのか、いや何日なのかも分からない。  颯真が顔を上げてあたりを見回す。近くのスマホを確認して、夜だ、と言った。 「じゃあ、こんばんは、だね」  そう挨拶すると、颯真がふふっと笑った。 「もう、正気に戻ったみたいだな」  抱擁を解かれて、颯真が潤の顔を覗き見る。 「……うん。多分、終わった」  潤は頷いて、颯真を見返した。   「いつもの潤だ。おかえり」  颯真にそう言われ、軽く唇にキスをされた。その通りなのだけど……。  潤は、急に冷たい風が吹くような、一抹の不安に襲われて胸がそわそわしたのだ。  思わず口に手を添えた。  もう、終わっちゃったんだ、という唐突な実感が込み上げてきたのだ。  発情期。  キスをしてくれて、愛してると言ってくれて、自分も愛していると応えて。  彼を逸るように受け入れて、優しい瞳を浮かべながら情熱的に満たしてくれて。  それだけで、恍惚として他は何もいらなかった。  それが終わってしまった。  日常生活が戻ってくるのが嫌ではないのだが、これまでの数日間が幸せすぎて、思いが残ってしまったのだ。颯真をこれまで独り占めできた時間が終わるのが、とても心細い。  胸に迫るものがあって、思わず鼻をすすり上げてしまった。  それに颯真が気が付かないはずもなく……。 「どうした」  優しく問いかけてくれる。  潤は、颯真のバスローブを無意識に握った。呼吸を無意識に整える。温かい。ずっと颯真だけを見ていられれば幸せなのに。 「……うん。なんかもう……終わっちゃうのが、ちょっと寂しくて……」  口に出すと、ますます切ない気持ちに拍車がかかり、思わず潤は口元を抑える。嗚咽が込み上げてきそうで、目を閉じて息を呑む。  颯真が察して、潤を抱き寄せて、背中をとんとんと優しく慰めてくれた。 「潤が、そんなふうに寂しがってくれるなんてなあ。発情期はオメガにはひたすら負担だから。俺たちは、発情期を幸せな時間として共有できたんだな」  大丈夫だよ、と颯真が耳元で囁く。 「発情期でもそうでなくても俺たちは変わらない。  俺たちはこれまでも、これからもずっと一緒だ」  そう言葉にされて、わずかに安堵しつつ、潤は泣いてしまいそうで呼吸を整える。 「……うん。……でも……」  この幸せな時間は、またやってくると知っている。  でも、この胸に去来する寂しさを、見なかったことにはできなくて。  そうだ、と颯真が何か思いついたように声を上げて、潤の元から離れた。  しばらくすると戻ってきて、再び潤を抱き寄せる。 「潤、少し目を瞑ってて」  そう促されて、潤は素直に瞳を閉じる。  しばらく待つと、いいよ、と声がかかった。  潤がそっと目を開けると、穏やかな表情を浮かべる颯真がいて。  その目の前には、シンプルなデザインの白金のリングが掲げられていた。 「潤、俺はお前といつも共にある」  ノーという答えは受け付けないと言わんばかりに、颯真が潤の左手の薬指にするりとリングを嵌める。それは当然のようにサイズがぴったり。  颯真は、その上に誓うようにキスを落とした。  「愛している。ずっと。生涯をかけて誓う」    その告白に、潤の気持ちがぐっと込み上がる。颯真、と呼びかけたかったのに、その真摯な言葉と誓いに胸を打たれて、言葉が詰まった。  気が付けば、視界がくにゃりと歪み、頬に熱いものが伝って落ちた。  颯真が困ったように笑う。 「はは。何泣いてるんだよ。今更だろ?」  颯真の指が潤の目元に触れて、涙を拭ってくれる。歪んだ視界から、颯真が微笑みを浮かべている表情が現れた。 「お前は俺のものだ。いざとなれば全てを捨ててお前を攫うから。安心して待っていろ」  颯真はそう言って、頷く潤を、強く強く抱き寄せたのだった。

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