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 DTCプロジェクトのミーティングの結論を受けて、森生メディカルの広報部長である香田は早速動き出した様子。  メトロポリタンテレビにアルファ・オメガ学会で発表予定のペア・ボンド療法の研究報告会と称する記者発表会のライブ中継を打診したらしい。  やはりライブとなると枠が取れないとかなり難色を示されたらしいのだが、そこに片桐が仲介してくれたようで、話がなんとか通ったらしい。   「わたしもペア・ボンド療法の結果はとても楽しみです。うちがライブで入れるのは正直有難いですよ」  潤が、香田の報告を受けて片桐に謝礼の連絡を入れると、片桐はそう言った。  片桐はなにも言わないが、彼がこちらに肩入れをすると難色を示す者もいるのだろうというのが、今回のことでも察することができた。 「片桐さんには何から何までお世話になりっぱなしですね」  潤の言葉に片桐は苦笑する。 「森生社長はお気づきかと思うのですが、うちがペア・ボンド療法に肩入れすることに懸念する人もいるんです。マスコミは公正中立であるべき、とか言われちゃうんですよね」  片桐は軽い口調で言う。 「それは、難しい問題ですね」  潤がそう応じたが、片桐は何を持って中立というのかは難しいですと応じた。 「中立とは、味方にはならないし敵対もしないという立場を言います。メディアは情報を取り扱いますが、その取り扱う情報を取捨選択する時点で個人の考えが反映されるのですから、そもそもバイアスはどうしてもかかる。  その極端な状態が、今の東都新聞社です。彼らを中心にしたメディアが行っている、オメガへの強い風当たりはそのようなものが原因です」 「彼らは中立という、メディアの建前のスタンスを捨てている気がしますね」  潤もそのように応じた。 「メディアは人の目が入っている時点で中立にはなり得ません。ただ、公正であるべきだと考えています。偏りがないということです。これも意識すると難しいことなのですけど」  片桐はこんな例え話を始めた。 「たとえば、自分の立ち位置がそもそも非常に偏った場所にいれば、偏り自体を自覚にしくいものです」  それは今の東都新聞社の報道姿勢の批判だろうかと潤は密かに思ったが、口には出さなかった。 「わたしは、この仕事は視聴者に多くの判断材料を提供するのが仕事だと思っています。そのためバランスを考えます」 「バランスですか……。それは現状のオメガに対する強い風当たりに対して、異なる視点が必要ということでしょうか」 「そうです。もちろんわたし自身はペア・ボンド療法は有益だと思っていますし、広く、多くのオメガの人々に知ってほしいと思っています。それを報じることがメディアの役割であることも承知しています。  その一方で、メディアを俯瞰して見た際に、バランスをとる必要があるとも思っているんです」  潤はその言葉に無言で頷いた。言いたいことはわかる。 「東都新聞社のスタンスが成り立つのであれば、異なる立場のメディアもまた必要だと、うちはその、いわば自浄作用となるべきと、上を説得しました」  自浄作用と言うあたり、片桐は策士だと潤は思う。 「ただ、あえて御社がその役割を担う必要はないと思いますけどね」  片桐とのやりとりが楽しくなってきて、潤はそのようにけしかけてみる。 「そうですね。それも指摘されました。でも勝負をかけるタイミングって、ありますよね」  片桐もまた考えて動いているのだ。  しかし、それがなかなか上に伝わらないんですよ、と嘆いてみせる。 「そのような意味で、森生社長と長谷川社長の独占インタビューは、上を説得するいい材料になりました」  手土産としては上々であったらしい。 「アシストになったなら、何よりです」 「うちの経済部が喜んでます。森生社長と長谷川社長で対談をしてほしいっていう話も出ています」  盛り上がっているようで、なによりだ。 「あはは。お手柔らかにお願いします」 「詳細は、香田さんと詰めさせていただきますね。  ライブとなったら、どれだけのメディアが追随してくるか、楽しみですね」  きっとスマホの向こうでは、片桐が楽しそうな表情を浮かべているのだろう。  潤も苦笑した。片桐は案外、この状況を楽しんでいる。 「我々メディアが地上波で報じ、ネットを辿ればきちんと動画もアップされている。知りたい方には十分届くと思います」  潤は頷いた。 「……そうだといいのですが」  そして、DTCプロジェクトのミーティングのあと数日して、潤のもとに和泉からも連絡が入った。  来月の学会が滞りなく終えてひと段落したら、プライベートで森生先生も交えて慰労会をしませんか、という誘いだった。  意外で驚く。  まず、なぜ颯真ではなく、自分宛に和泉から連絡が入ったのだろうかと潤は怪訝に思った。  しかし、そのメールの先を読んで納得した。 「そこで遅ればせながら、私の番もご紹介させていただきたいと考えています」  ……なるほど。 「またいろいろお話したいですね。  こういう場は内容を選ぶので、ぜひ次回は違った形で」  ……潤が、あの時新堂に話したことが、そのまま和泉に伝わったらしい。  新堂だけでなく和泉にも気を遣わせてしまったかなと潤は思ったが、彼らと忌憚ない意見を交わしてみたいというのは本音だ。  颯真にも話しておこうと思う。

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