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大変お待たせしました。
連載を再開していきたいと思います。
えっちらおっちら書いていきますので、お付き合いいただけるときに、お付き合いくださると嬉しいです。
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平日の朝は、潤にとって、ほぼルーティンで成り立っている。
例えば、朝起きたらまずスマホでその日の天気を確認して、部屋のクローゼットを開けてワイシャツとネクタイとスーツを選ぶ。今日は四月最後とは思えないくらいような陽気だそうで、通気性が良い素材が良さそうだ。
そう考えて、無地のネイビーのスーツを取り出す。ワイシャツは白。ネクタイも爽やかなブルー地を選んだ。
着替えると、歯を磨いて顔を洗い、肌を整えて髪をセット。ここまでは毎日の流れで。髭はあまり生えないので、必要に応じて手入れしている。
そして、午前七時。階下のエントランスに停車している社用車のドライバーに挨拶をしてから乗り込む。車内で行うのは緊急のメールチェックとスケジュールの確認。江上が一緒に乗り込むと、そこに懸案事項の確認などが入る。
こういった朝の一連の流れを遮断したり無視したりすると、何かを忘れたり、どこか調子がおかしくなったりするから困る。
そんなルーティンの一つで、出社したその足で本社の隣にあるコーヒーショップでロイヤルミルクティをテイクアウトするというのがある。
森生メディカル本社の近くは、高層ビルが建ち並ぶオフィス街だが、そのなかで堅実に商売をしている人気のカフェだ。
毎朝シフトで入っている男子大学生と潤は顔見知りで、頻繁に挨拶する仲になっていた。
「いらっしゃいませ! あ、社長おはようございます」
いつものように潤がふらりと入ると、そのバイトの男子大学生がカウンター越しに挨拶をしてきた。カウンターで注文して支払う、セルフスタイルの店で、店内を見渡すと、いつもの客が思い思いの席で時間を過ごしている。
「おはようございます」
潤も挨拶をする。
こんなふうに挨拶の交流が生まれたきっかけは、自分が若いながらも社長業をしていると知られたためだ。江上を伴って来店した際に、「社長」と呼ばれているのを聞きつけたらしく、後日話しかけられたのだ。
「めっちゃお若いのに、社長なんてすごいですね!」
よほど印象的だったらしい。以来ロイヤルミルクティを注文する常連と認識されて挨拶を交わす関係になった。とはいえ、潤とてあまり詳細は語らないので、スーツに社章を付けているものの隣のビルの森生メディカルの社長であるとは思っていないようだが。
最近では潤もそんな彼を、名札どおりに「鳴海君」と呼んでいる。
背丈は潤よりいくらか高いくらい。今時の大学生といった雰囲気だが、人懐っこい表情と接客で常連客に慕われている。聞けば、この近くに住んでいて、大学は本郷だというのだから、優秀なアルファの学生だろうと推察する。
「鳴海くんは毎日朝早くから大変だね」
潤がそのように挨拶すると、鳴海はにっこり笑った。
「常連の方が朝からお越しいただけるのは嬉しいです」
これまでさりげなく交わした雑談によると、彼は早朝シフトで、開店から大学が始まるまでの約三時間半から四時間ほどを担当しているとのこと。七時すぎまでは客も少ないため、一人で回しているらしい。
授業の後は家庭教師や居酒屋でバイトしているというのだから勤労学生だ。潤も学生時代は学校の授業よりも仕事に精を出したタイプだが、生活のためではなかったので、感心するばかり。
「ゴールデンウイークの中日なのに、お仕事なんですね」
ゴールデンウイークの四月の祝日と五月の祝日を繋ぐ平日だった。休暇で埋めれば、最大十連休が取得できる、らしい。
人事では有休消化率の向上のため、この間の有給取得を推奨していたが、医療機関を回るMRは難しかろうと思う。颯真はゴールデンウイークの祝日だって出勤予定だ。
「もうね、ゆっくり休みたいよね」
潤は笑う。あは、分かります、と鳴海青年も答えた。
今日はいつものロイヤルミルクティにミックスサンドを追加した。颯真が早朝から仕事でいなかったので、朝食にありつけていない。しかも朝食を抜くと、なぜか江上にバレる。
「お前は基本的に尚紀と似ている。ちゃんと食べろ」
江上は、こういう時ばかりは秘書の仮面を外してお説教する。尚紀も気を抜くと食事を抜いてしまうタイプらしいから、ついでに怒られている気分だ。
このカフェは軽食にも力を入れているらしく、朝から美味しいサンドイッチが食べられるので、潤は気に入っている。
年明け頃、颯真と距離をとっていた時も、ここで朝食のサンドイッチをテイクアウトして、すっかりハマったのだ。
「お待たせしました。ロイヤルミルクティとミックスサンドですよね。お気をつけていってらっしゃいませ」
鳴海がにっこり笑って紙袋を手渡してくれた。潤も礼を言って受け取った。
「ありがとう」
そんな話をして、上層階に上がってきた。ノートPCに電源を入れて、ジャケットをハンガーにかけ仕事をスタートする準備を整える。
そして、先ほど買ってきたロイヤルミルクティを一口。
茶葉の香りが濃厚でクリーミーな味わい。おいしい。
そして、メールチェックをしながら、一緒に買ってきたミックスサンドの包装を開けてサンドイッチを頬張った。
今年のゴールデンウイークは飛び石連休だ。四月の終わりの祝日と土日の間を休暇で埋めれば七連休になる。現場はともかく、この上層階などの間接部門は休暇をとる社員も多そう。ゆっくり書類を片付けられるなと思った。
「おはようございます」
潤が仕事を始めて一時間も経たずに、コンコンとノックがされ、入って来たのは秘書。
「おはよう。早いね」
潤がそう声をかけると、定時で帰るので、と江上が返してきた。秘書課の定時退社は未だに続いているようで何よりだ。
「昨日はありがとう。尚紀とも話せて楽しかった」
そう言うと、江上は「尚紀は貴方と颯真さんの結婚式が大層楽しみみたいですよ」と言った。聞けば、あの後ずっと尚紀はその話をしていたらしい。
なんて可愛いのだろうと潤は朝からほっこりした。
「二人は結婚式、しないの?」
潤の質問に、江上は尚紀の出産を終えてからですね、と言った。
潤の脳裏に、可愛らしい赤ん坊を抱いた尚紀が、白いタキシード姿でバージンロードを歩く姿が思い浮かんだ。きっと嬉しすぎて泣いてしまうだろうなと思う。
「ふふ。ベビちゃんと三人の結婚式も良さそうだね」
そんな他愛ない話をしていると、デスクの脇に置いておいたスマホが揺れていることに気がつく。江上がそれに気がついて、気を利かせて退室した。
潤がスマホを取り上げると、発信元はメトロポリタンテレビの片桐であった。
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