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藤堂は、今日は相模原ではなく品川本社に出社していたらしい。潤が二階のカフェにいると返信すると、まもなくやってきた。
「探しました!」
「今日はこっちに来ていたんだ」
潤がそう反応すると、相模原は大西部長がいらっしゃいますしね、と頷いた。
どうやら件の週刊誌記事を見据えての対応だったようだ。
「そっか。心配かけてるね」
「いえ」
「フロアの雰囲気はどう?」
潤の端的な問いかけに、戸惑ってる人もいますよ、という。
それはそうだろうなと潤は頷く。
「結構、ざわついてますね」
知らなかった者もいたようですが、あの昼過ぎのメッセージがきっかけで、「なんだなんだ」ってなった者も多かったみたいで、とのこと。
あえて知らせる必要もないのだが……、社外に向けるメッセージを社内に周知しないわけにはいかない。
「お前のところに問い合わせ来た?」
「来ましたよ、いくつか」
藤堂は苦笑した。なぜか事情通と思われていて、同期やかつて同じ部署だった同僚などから、詳細や詳しい事情を知っているかという問い合わせがいくつかはいってきたとのこと。
「霧島からはすぐに連絡が来ました」
藤堂がそう話してくれた。事情を知らなかった彼は、藤堂の話を聞いてひどく驚いていたとのこと。彼は、森生メディカルのエース級のMRで誠心医科大学病院を中心とした都内エリアを担当しているが、当然横浜病院との連携もあり、颯真とも顔見知りだという。だから現実味もあるのだろう。
ほえーって言っていましたよ、とのこと。
何事もリアクションは大切だ。霧島にしてみれば、かなり困ったのだろう。
「らしくない反応だね」
エースMRを戸惑わせてるね、と苦笑すると、藤堂も頷いた。
「さすがに予想外だったようです」
ただ、そこはやはり彼らしく、状況を理解して現場に戻って行ったという。
彼はオメガだし、思うところもいろいろあると思いますよ、と藤堂はフォローしてくれた。オメガだからといって理解してくれるとは思わないが、潤も頷いた。
「面白かったのは樋口さんです」
同期の人事部の才女からもやはり問い合わせが来たとのこと。
「あの指輪のお相手はお兄様だったのね! と大興奮のようです」
藤堂の言葉から嫌悪感や戸惑いみたいなのが読み取れない。おそらく好意的に受け取ってくれたのだろう。意外すぎる反応だ。潤は驚き目を見張る。
「社長のお兄様もなかなかのイケメンなので、彼女の中では第一印象として『アリ』だったようです」
「それはすごいね……」
「そういう反応もあるってことですね」
藤堂の言葉に潤も頷いた。
「一定の距離感で受け入れてくれる姿勢はありがたいね」
「その柔軟性、見習いたいです」
藤堂は頷いた。
「春日は?」
ふと問いかける。藤堂は首を傾げた。
「どうも今日は休みのようです」
「そうなんだ」
「連休明けですし、休暇も取りやすいですしね」
とはいえ、管理部門に所属している手前、連休前後や月末月初は多忙なはずなのだが……。よく休めたなぁと思う一方、休みたい時に休める環境であるのが我が社の魅力の一つであるはずなので、深く考えないことにした。
「この件に巻き込まれていないのであれば、うん。なによりだよ」
潤の反応はやはりどこかわざとらしく聞こえるらしい。
「同期の反応、気になりますか」
そう問われれば、素直に頷くしかない。
「そりゃあね」
「大丈夫ですよ。少なくとも我が社は大丈夫です」
それ、根拠あるの? と突っ込みたくなったが、潤は止めた。大丈夫と信じたいのは同じ。
樋口の件といい、全ての人が拒絶するわけではないという具体的な話を聞いて安堵する。
「あと、おそらく営業サイドから連絡が入ると思いますが、誠心医科大学の方でも、今回の記事についてコメントを出すようですよ」
霧島情報です、とのこと。
潤は頷いた。
この件について向こうも足並みを揃えるということだ。早めに情報を共有しておこうと思う。
「ありがとう。伝えておく」
いい気分転換になったと潤は立ち上がった。
「じゃあね」
「社長」
エレベーターのエントランスに向かう潤に、藤堂が背後から呼びかけた。
「なに?」
振り返ると、背の高い藤堂が視界に入る。
「大丈夫ですよ。我々がいます」
大丈夫。
我々。
その力のある言葉に嬉しくなる。思わず口許が少し緩む。
「知ってる」
潤は、少しはにかんで頷いて、手を挙げ軽く振った。
藤堂と霧島からの事前情報の通り、颯真の勤務先である誠心医科大学も広報室を通じてコメントを発表した。やはり、勤務している医師個人のプライベートであると報告を受けているため関知していないとの立場を明らかにしたのだった。
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藤堂の話に出てきた霧島君と樋口女史と春日君は3章70〜76話あたりの「同期会」で出てきた、潤と藤堂の同期メンバーです。復習されたいというありがたやな方はぜひどうぞ。
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