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 翌朝、三十歳となった一日目。潤はいつもより早くに目が覚めた。隣には当然のように颯真が眠っている。昨夜は日付が変わる時間を過ぎてもなお、互いを求める欲が収まらなくて、貪りあっていた。  正直、何時頃まで互いを求め合っていたのか、記憶にない。  昨日のベッドの上の颯真は、とても優しくて、穏やかな顔をしているのに、激しく求めてきて。その大きな幸せに晒された。  彼の愛情は大きくて、包まれて安心できる。だけど昨日は、優しいのにどこか大胆で、潤は大いに満足した。  潤の片脚だけを掲げられぐっと中に入り込まれ、なにもかもが露わにされて、息を呑んだ。奥まで突かれる快感に、啼くような声が漏れる。 「あっ……あぁ……ふ……ああー!」  そんな潤の反応に颯真は満足げで。 「ほら、潤ごらん。脚を開いてエッチな体勢だな。俺をどっぷり咥え込んでる。気持ちいい場所に当たってるだろ。さっきから中がキュンキュン締め付けてくる」  そう言って潤の立ち上がったフロント部分に手を添えて、白濁を塗りつけて擦り上げる。 「ああんっ……!」  目を開ければそんな刺激的な風景が繰り広げられていて、それが視覚的に刺激的で興奮し腰が揺れてしまう。  前も後ろも攻め立てられて、意識は目の前の颯真の存在だけでいっぱいになる。 「はぁん……。そぅ……ま」 「その声、そそられるな……」  颯真はそう呟いた。 「溺れたらいい。なにもかも忘れて。今は、俺の番だ。俺だけを感じて」  そう囁かれて、潤は欲望のまま素直に腰を振り達して、颯真のフェロモンに溺れた。  彼はそんな潤の頭を優しく撫でて、いい子だなと囁きつつ、額にキスを落とす。ひたすら優しく快感しか得られない行為に、うっとりした時間。  きっと颯真は、最悪の誕生日を払拭したかったのだろう。  ふと視線を流すとスマホが静かに点滅していて、メッセージが届いていた。江上からで、夜中に着信していたようだった。 「明日は一緒に出社するので、六時半に伺います」  有無を言わさぬ雰囲気がある、と潤は苦笑した。  その意図は分かったので、潤は了解した旨のスタンプだけ送った。また五時前と早朝だが、向こうは夜中に送ってきているので許されるだろうと思ったのだが、驚いたことにすぐに既読がついた。  昨日はいろいろ心配をかけてしてしまった。きっと今朝の車内で追求されるのだろうから、心持ちだけは整えておこうと思う。  あまり寝ていないが、体調は悪くない。メンタルも。気持ちはすっきりとしていた。  颯真が話を聞いてくれて、全てを受け止めて慰めてくれたからだろう。  自分は安心して、癒されて。おそらく一人ではここまで気持ちを立て直すことはできなかった。  隣で寝息を立てる颯真をじっくり眺める。寝顔をこんなにまじまじと見ることは、最近はあまりなかった。  ……なんて、愛おしい人だろう。  胸に込み上げる温かい気持ち。大切にしたい人。抱きしめて、キスをしたい衝動に駆られたが、こんな朝早くに起こすのもかわいそうだ。  潤は衝動をぐっと耐え、昨夜の颯真に隅々まで愛撫された身体を自分で抱きしめた。  朝六時半に江上がやってきて、三人で軽い朝食を摂ってから、潤と江上は社用車に乗り込んだ。 「で、昨日は何があったんですか」  車が発車し街道に滑り込んだ途端、江上からそのように問われた。  すでに親友は秘書モードに切り替わっており、さくっと切り込まれた形だ。  潤はどのように話そうか迷う。 「うん、昨日は何も言わなくてゴメン。心の余裕がなかったんだ」 「それはなんとなく分かりました」  江上が藤堂にも聞いた、というのだから、相当に心配をかけたのだろうと言うことは想像がつく。 「気持ちがうまく処理できなくて。  っていうのも、春日が僕と颯真の関係を、佐賀に話したって話を聞いて、カーッときちゃった」  潤がそう言うと、江上は驚いた様子で一瞬黙り込んだ。 「え…、佐賀? って、あいつですか」  反応が颯真と一緒だと潤は思う。もはや、前管理部長は「あいつ」という侮蔑を込めたニュアンスで呼ばれるほどに敵対する存在だと実感した。 「そう、あいつ。あの佐賀」 「まさか、春日と繋がってたんですか」  江上の驚きと一気に上向いた怒りに、潤は驚く。 「いや、現状そこはまだ聞いてないから! 僕も思わずカッとして……」  事情を聞いていないと言おうとしたら、江上が珍しく言葉を被せてきた。 「そういう時は私を呼んでくださいよ!」  怒られた。たしかに、佐賀に繋がる相手であれば、一人で立ち向かうのは問題だっただろう。それで前回は、佐賀にグランスを打たれたのだから。 「ごめん。咄嗟のことで、僕もうまく対処できなかったんだ」  自分の想像が先行してしまって、彼らからうまく話を引き出すことができなかった。 「いえ、私こそ興奮して失礼しました」 「今日は、春日からきちんと話を聞く」 「じゃあ、私も同席します」  諾としなければ引き下がらない雰囲気がある。潤も頷いた。 「うん、春日と話す時は呼ぶよ」 「藤堂は?」 「うん、あいつは春日を庇っていたらしくて」 「……やりかねませんね」  そう即答して、やはり江上の藤堂への評価は高くないなと潤は思う。昨夜連絡してみたものの、拒絶されたという恨みもあるのだろうなと潤は感じた。  だけど、それはいつもの江上の感じなのでどこか安心する。 「ふふ。お前たちは本当にそれぞれ個人は仕事ができるんだから、会社のために協力してくれてもいいのにな」 「御免被ります」  真面目に即答で断られてなお、潤は楽しくなって、くすくすと笑った。 「今日は朝いちで、藤堂を呼んでくれる?」  まずは藤堂と話すと、潤は言った。 「あいつとは共有しておく情報があるしね」 「私も同席します」 「それは大丈夫」 「どうせイチャイチャするんでしょう。颯真さんに言いつけますよ」  腹立たしげな様子を隠さずに江上は言うが、潤はふふっと笑った。 「颯真は藤堂を乗り越えたみたいだよ。  大丈夫、あいつにはおそらく面倒な仕事を一つ、さらに押し付けるだけだから」 「面倒な仕事?」  潤は少し、いい言葉はないかなと考える。 「そう、それがペナルティかな」  潤の言葉に江上はあからさまに眉根を寄せた。 「あいつを許すと?」  江上が言う、藤堂への「あいつ」という表現は、佐賀に対する「あいつ」と同じような意味合いを持っていそうだが、それは藤堂が気の毒というものだろう。  まあ、落ち着けよ、と潤は嗜める。 「最終的には話を聞いてからかな。今回は僕の判断ミスでもあるし、責任の所在がどこにあるか、まだ判断できない」  本当に相模原の調査はお前に任せておけば何も問題はなかったのに、藤堂に乗せられたんだよな〜、と潤は頬杖をついて車窓に視線を流し、苦笑気味にため息を吐いてみせた。

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