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「あとは、藤堂と春日ですか。彼らはどうするおつもりですか?」  先ほどよりも確実に前のめりで、江上はぐいっと踏み込んできた。藤堂の扱いが気になるのかもしれない。  江上自身は、潤は藤堂に対して甘いと思っているようだが、潤本人はそんな意識はなくて、信頼する部下という点で江上と同じラインで考えている。颯真には「藤堂のことが好きなんだろう」と指摘されて、確かにそうだとは思ったが、贔屓目があるとすれば、それは江上と藤堂は同じだと思う。  江上から見ると藤堂は、気に入らないが、気にはなる相手に違いない。 「藤堂と春日には我が社の今後を考える社内プロジェクトの運営を、社長命令でやってもらおうかなって思っている」  江上は首を傾げた。怪訝な表情だ。 「我が社の今後を考える社内プロジェクト……ですか?」  潤は頷いた。 「そう、簡単に言うと『未来共創プロジェクト』みたいな感じかな」  昨日、母茗子が率いる親会社の森生ホールディングスの幹部から出された二つの課題「ネットに流出した相模原研究所の噂の出所を突き止める」と「社内の沈静化」のうち、二つ目の対応策として、大西と飯田を相手に潤がプレゼンした案だった。 「明確に会社が目指す将来ビジョンを示すことで、社員の不安を払拭したい」  その方策として潤が提案したのは、これから森生メディカルがどのような形で社会に貢献していくかの道筋を、CSR……企業の社会的責任として社員と作り上げたいというものだった。  いわゆるCSR計画を社員と作り上げるというものだが、どさくさに紛れてこの状況を自社のブランディング強化に使うという案に、大西はにやりと笑い、飯田も同意してくれた。  その対話には多くの社員を巻き込み、潤自身も対話の場面に出るという構想だが、その主軸を二人に託そうと思っている。  江上は少し考える仕草を見せた。どうやら飯田よりも慎重な反応だ。 「なるほど、ここで彼らを巻き込むということですか。でも、結構な権限ですよね」  それは、許すということですか、不問に伏すということですか、と鋭く疑問を突きつけてくる。多分、心配というより、単純に気に入らないのだろう。 「彼らには責任をとってそれなりの役割を果たしてもらおうと思うよ」  適材適所の考え方だよと笑ってみせた、江上の表情には笑みはない。潤も少し考える。 「そうだな……。藤堂にはその取りまとめ、春日には社内向けの広報を担ってもらおうかなって思ってる」  藤堂には仕事を押し付けっぱなしだが、春日とセットということで、ここでは諦めてもらう。彼ならば得意分野でもあるし、なんとかやるだろうとは思う。むしろ春日をどうアシストするかが見ものだ。 「藤堂はもともと顔が広い。何かあれば情報が集まってくるような奴だ。そういう人間がまとめ役になれば、おのずと人を巻き込むし、巻き込まれた人から情報が自然と上がってくる。社内に自然にCSR計画を立てていることを広める、情報を集めるにはうってつけだ」  藤堂を起用する意図は分かりました、と江上も頷く。 「でもなぜ春日を広報に? 役割としては彼には重いとも思いますが」  その質問には潤も頷く。もっともなご意見。デスクに頬杖をついた。 「ここが彼のターニングポイントなのかもしれないって思っててさ」  潤は少し考える。彼の起用は藤堂を考える時よりも難しい。今の彼の強みと弱みを考え抜いた末の結論だが、正直やり遂げてくれるかは、五分五分ではないかと思う。やってみないとわからない。それでも可能性を信じて選んだポジションだ。潤は彼を信じるしかない。 「春日には、人に伝える方法を考えてほしいなって。社内広報は実際なんでもいい。映像音声テキスト、それ以外でも。どうすれば人に伝わるかを真剣に考えてほしい。  藤堂が近くにいれば、真剣に考えてくれる人も増えるし、そういうコミュニケーションの広がり方も経験してほしい」  江上は盛大にため息を吐いた。 「それ、ペナルティっていうより、温情じゃないですか」  春日について言いたいことが多いようだが、彼の口調は先程よりもずっと柔らかいものに戻っている。潤は秘書の承諾も取れそうだと胸を撫で下ろす。  江上があえてそう言っていることを潤もわかっている。彼のバランス感覚は貴重で、潤にとっても冷静な判断の一助になってくれる。 「そうかな。僕は彼を見捨てるわけにはいかないし、ならば役立ってもらいたいなってだけだよ」  それにそこに藤堂がいれば拡散力は一気に増すしね。 「これは、社員をどれだけ巻き込めるかがカギだ」  ここが勝負所だと潤は思っていた。 「そんなに大掛かりなプロジェクトにするつもりですか?」  だって社内の沈静化が目的でしょう、と疑念を挟む江上の気持ちはわかる。  だけど潤には、この話をそれだけに留めておくつもりが端からないのだ。 「人は当事者になれば真面目に考える。僕は僕でこの会社をどうしていきたいか、ずっと考えている。みんなもどうしたいかを考えて、議論に参加してほしい」 「全社的な議論にしたいということですか?」  江上の問いかけに潤は頷く。 「そう。だって、自分で考えたことには愛着が湧くし、参加したものを否定はしにくいだろ」  なるほど、と江上は頷く。 「そんなことをしていれば、くだらない噂話などをする暇もなくなって、ちょうど良い」  彼は潤の意図を正確に理解したようで頷いた。ならば、藤堂をキーマンに据えて、補佐に春日は正解ですねと頷いた。 「でしょ。まさに適材適所だね」  潤は胸を張った。  しかし、潤が見せた余裕も昼休みまでだった。  ランチを取ってから颯真に先ほどの片桐へのスクープの提供の話の承諾を取るために連絡すると、彼から驚く話を聞いたのだ。 「え、それは本気なの?」  思わず問い返してしまったが、スマホの向こうの颯真は、らしい、とだけ言った。  それは午前の外来での出来事だったという。  颯真は尚紀から驚く話を聞いたとのこと。  彼はこのタイミングでメトロポリタンテレビからのインタビュー取材を引き受ける決意で、颯真に主治医として許可をもらいにきたというのだ。

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