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この大事な時期に、インタビュー取材などストレスの負荷がかかりそうなものを、なぜあえて引き受けるのか。
「この間メトロポリタンテレビからインタビュー取材の依頼を受けました」
そのような話はあった。一ヶ月ほど前、初夏の日差しが眩しい横浜の大さん橋で、潤は尚紀から直接聞いた記憶があった。
取材依頼が来ていること、それについて受けないことはないと思うと廉は言っていたし、何より尚紀本人が、そのために気持ちの整理がしたいと柊一との過去と彼への想いを潤に語り、決着をつけたのだった。
だからいずれは受ける取材だと思っていた。
だけど、このタイミングであるとは夢にも思っていなかった。
「なんで止めなかったの」
驚きをそのまま声色に出してしまった。かなり颯真を責める口調であったかもしれないと口にしてから潤は気がつく。
颯真はできなかったと言った。
「あいつは全部決めてからここに来たんだよ。ドクターとして、主治医としての診断が欲しいとだけ言われたら、何も言えない」
颯真の言葉尻に苦渋が滲む。潤は感情のまま彼を詰ってしまったと後悔した。
驚きで自分を繕えなかったというのは言い訳だ。感情のままに颯真に詰め寄ってしまっただけだ。
「ごめん……」
気まずい雰囲気が流れた。
尚紀は廉の子供を身籠っており、安定期に入ったとはいっても決して無理はきかない身体だ。ペア・ボンド療法に対して世間の目も厳しい。
そんな中にインタビューなど、どんなにストレス負荷がかかるか。公に見せる顔をもつ潤であるからこそ、予想できることもある。
颯真によると、定期検診で受診した際のことで、尚紀の申し出はあまりに突然で驚いたという。なぜ今、尚紀がその取材を受ける必要があるのか、理解しがたいということを潤と同じように疑問を持ち、投げかけたという。
「深い理由はありません。だけど、敢えて言うなら、許せないということでしょうか」
ですから、信念の問題かもしれませんと尚紀は話したという。
「信念……」
はっとするものがある。
「僕は潤さんと颯真先生を信じています。でも、お二人に何かあったら、マスコミの人たちを僕は許しません」
あの時の尚紀の眼が、脳裏に蘇る。強い意志の光を感じた。
「潤さんと颯真先生は、僕にとって恩人です。もしお二人に敵が現れたら、僕は躊躇いなく助けに行きますから……」
尚紀……!
潤は強烈な己の無力感に襲われた。
尚紀のその言葉を話半分に受け止めていたわけではないけれど、彼にそんな負担を負わせるつもりなど全くなかった。今は自分の身体とお腹の子供のことだけを考えていてほしいと切実に願う。
こんなこと、廉だって望んでいないだろうに。
「当然廉にもかなり強く思いとどまるように説得されたらしいが、尚紀は同意しなかった。
なんでそこまで、と聞いたが、今自分ができる精いっぱいのことをしたいとだけ。俺には主治医としての可否だけお願いしたいと言われた」
「できる限りの精いっぱいのこと……」
尚紀が何を思って今できる限りの精いっぱいのことをしようとしているのか。
潤は彼には彼の戦いがあるということを察した。それは自分が総力戦であると言ったことに通じるからだ。
「それにしたって……」
スマホの向こうで颯真が力なく呟く。
「どうしたってお前も尚紀も全部決めてから俺に言ってくるんだろうな」
「それは……」
その言葉は宙に浮いた。潤は何も言えない。
言い訳さえ見つからない。
言われた方は黙って受け止めるしかない。それがどれだけ辛いことか、潤は尚紀にされて悟った。
潤もまた尚紀と同じように、自分ですべて決めてしまって、颯真に伝えたのだ。
潤が颯真に片桐へのスクープの提供の話をしているとき、彼は何も言わなかった。以心伝心、片割れには潤の冷静な意図と狙いが伝わっていると思ったが、おそらく違う。
彼は彼で、尚紀のことと相まって無力さを感じていたのかもしれない。
自分は、颯真ならわかってくれると勝手に信じ込んでいただけだ。片割れを傷つけて……ひどいことをしてしまったのかもしれない。
颯真が呟いた。
「お前が何を考えているか分かっているつもりだ。でも、お前にとってどれだけその傷が深いのかも、俺は知っているしな……」
分かっているからこそ、憂うのだと彼は言う。今この決断をする、身の切り方を、心配している。無傷ではいられないと知っている。
「でも、これくらいしかないんだよ」
「わかってる! お前がどうしても佐賀を許せないのも……。その切り札として使うんだろう」
颯真は自分がやろうとしていることを、言わずとも察してくれる。それは嬉しいことである反面、潤の姿勢に彼は辛い思いをしている気もするのだ。双子だけど、番だけど、どう思うか感情は本人だけのもの。
それに、今回は自分だけではない。
尚紀からもそのように言われては、颯真の気持ちも痛いほどわかる。
「ごめん。僕はきちんと相談してから決めるべきだった」
潤は素直に謝った。せめて自分だけでも、相談するという形を取ればよかった、と少し反省した。
「お前……その気持ちは本当だな」
颯真の硬い問いかけに、潤はうん、と頷いた。
「今日は早く帰ってこい。全部一人で決めた埋め合わせをしてもらう」
そう言われて、潤は素直に頷いた。颯真のその重い感情を受け止めるのは、番である自分の役割だと理解していた。
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