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 どうぞと案内されて、江上家のリビングに案内される。  家主はまだ仕事中なのに、不思議な気分だ。数ヶ月ぶりにここに来たが、この部屋の隅々まですっかり尚紀が馴染んでいる感じがしている。  二人で生活しているという空気が感じられて、とても尊く愛おしい。  リビングのソファを勧められて、潤は腰掛ける。目の前の続きのキッチンで尚紀がお茶を淹れてくれた。  潤が持参したルイボスティーを入れてくれたようだ。りんごとシナモンの香りがふんわりする。 「このお茶、以前颯真先生がくださったものと同じですよね」  尚紀はよく覚えていた。潤が尚紀のためにと買い求めたアップルルイボスティー。 「覚えていたんだ」 「少しずつ、大事に飲んでいますから」  そう言って使いかけのパッケージを見せてくれた。  尚紀と一緒にドーナッツを楽しんだ時に、颯真が「口に合ったのであれば茶葉も持って帰って」と持たせたもの。あれからずいぶん経っているが、彼にとって愛おしい思い出となっているようだと、潤も感じ入る。  颯真が選んだのは、輸入食材などを取り揃えたセレクトショップのもので、潤にも見つけやすかった。 「ご心配おかけしてごめんなさい」  尚紀はしょんぼりとして、潤の隣に腰掛けた。 「迷惑なんて思ってない」  潤はそう言い切る。ただ、心配なのだ。 「ねえ聞かせて。どうして今インタビューなんて受けようと思ったの?」  それが確認したいことだった。尚紀はしばし黙り込む。それは躊躇っているというよりは、自分の中にある本音と真摯に向き合っている時間のように、潤には思えた。 「どうにかしたくて」  尚紀の一言は、少し苦しげだった。 「嫌なんです。潤さんへの批判とか、もう聞こえてくるのが……もう辛い」  尚紀を苦しめているのは、自分たちへの批判。そう思うと、潤も胸が苦しくなる。それを尚紀は敏感に察知したのか。首を横に振る。 「いや、あの。違うんです。そうじゃなくて、僕はそんなことないって言いたいんです。それにペア・ボンド療法が正しいのかとか、倫理的におかしいとか、そんな話を聞いていて、僕は居ても立っても居られません」  捲し立てるような口調に、彼の思いの強さを感じる。やはり、自分が思いとどまらせるなんて、土台無理な話なのだろう。 「気遣わせてごめん。だから、インタビューで僕らを助けてくれようと思ってるんだ」  それは廉も言っていた。おそらく彼はインタビューで潤と颯真の関係を「肯定してみせるもりだ」と。だからマスコミの拡散力を必要としているのではないかと、分析していた。 「僕一人の力でなんとかできるなんて思ってないんです。……でも、自分ができることはしたいと思ったんです」  そんな尚紀の気持ちが健気に思える。 「尚紀……」 「僕になにができるか、考えずにはいられませんでした」  尚紀の言葉は一言一言が真摯で誠実味に溢れていると感じる。 「そんなことしなくていいのに」  思わず口をつく反応に、尚紀はくすりと笑った。 「そこまでしなくていい理由は僕にはないんですよ、潤さん」  だけど、尚紀は妊夫だ。大切な親友の子供を身籠っている。もう、幸せになっていいはずだ。 「僕は尚紀に幸せになってほしいよ」  なのに、尚紀の態度は清々しい。 「それは僕も同じです。潤さんに幸せになってほしい。それだけなんです」 「僕が尚紀を守るくらいに思ってた」 「たまには守られてください。大丈夫、そんなに心配しないでください。僕もたまには頼れるところ見せたいです」 「でも一人の身体ではないのに」  それには頷く。彼はお腹に手を添えて、愛おしく見つめる。 「タイミングが悪かったですよね。  でも、僕の怒りややるせなさを、この子はわかってくれると思うんです。だって、ペア・ボンド療法の時に授かった子だから」  怒り、という言葉が妙に潤の印象に残った。 「尚紀の中には、現状への怒りの感情が渦巻いているんだね」  潤は、彼の怒りが渦巻いていると表現した。もし、このタイミングで自分が怒りの感情を抱いていたら、怒りが渦巻き、やるせなさに苛まれるだろうから、そのような表現を使ったのだが……。  その意図もすべて承諾したように、尚紀は頷く。 「はい。僕は怒っています。だって、潤さんと颯真先生が批判されているんですよ。それは怒ります。  ……でも、同時に諦めているところもありました。だって、僕なんかに何かできるんだろうって。いつも守られているばかりで。だから、僕にもできることがあると気がついて、少し救われる気がしています」  それが、今回のインタビューなのかと合点した。 「尚紀は、インタビューで何を話そうと思っているの?」  すると、驚くほど尚紀はあっさり言った。 「僕は、僕の経験を今話すことに意味があるような気がしています」

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