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第2話

学ランの話はこういうことだ。  卒業生から不要になった学ランをタダ同然で集めて下級生に売るという、シンプルな商売が密かに行われていた。それは本当にお小遣い程度でカッコイイ学ランが手に入るあこがれの取引なのだ。裏地に赤や青の玉虫の布地や当たりがあれば刺繍が入っていることもある。サイズが合うなら即買いしなければ後悔する品ばかりだという。  その話も噂のように思っていたが、ある時瓜生の友達が声をかけてきた。 「瓜生、制服ほしくない? 先輩から回ってくるやつ」  瓜生は即答して友達に連れられて来たのが、そういえばこの家だった。来たのは三回目だと思い出した。 無事、渋いグリーンで玉虫サテン裏地のちょい長めの学ランを手に入れた。短ランを着る勇気はなかったが、ちょっとだけ背伸びした感が嬉しくてたまらなかった。 だか、事件が起こった。瓜生を誘った友達が親に学ランの出どころや関係した生徒を追求され簡単に白状してしまい、イモヅル式に学校や親にバレてしまったのだ。そしてその中に瓜生もいた。  西はその時のことを覚えていたようだが、瓜生はすっかり忘れていて「俺、まだ魂がなかったのかな、あの頃。いろいろあったのに」と忘れていたことの記憶を辿った。 「あの時はありがとうごさいました。庇ってくれて」  窓際に座り横を向いてタバコの煙を吐く西の顔に大人の男を感じてつい見つめてしまう。雨の当たらない窓を少し開けて煙を外に出していた。  西先輩、そう言えば女子にも人気だった。同級生の女子達が「西先輩を隠し撮りした」って騒いでたよなぁ、などと思い出し横顔を見ていると西と目が合った。真っ直ぐ見つめられて鼓動が早まるのは、年長者に対する緊張なのだろうか。 「……別に。たまたま俺の学ランを選んで着てたからな。貸したって言ってもおかしくないだろ」  視線を外しタバコを揉み消した西は瓜生の斜め前に座った。 「これ飲めよ、元気になるクスリ」  錠剤を自分も飲んで瓜生の口にも入れてきた。瓜生は拒む間もなく手のひらを口に当てられ、口の中にはクスリの粒が押し込まれた。ごつく大きな手が目の前にある。また胸の内側が泡立ち、口に密着した手のひらへ舌が当たったことに顔が熱くなった。 「あ……」  無理やり口を押さえられ「飲み込め」と顔が近づいたら吐き出すなんてできない。瓜生は西の切れ長な瞳から目が離せないまま、ゴクリとクスリを飲み込んだ。 「これ、なんの……」  胸が一杯で熱いのは薬のせいなのか?  そんなに早く効くのか、そんなはずはないが手を胸に当て借りたTシャツをぐっと掴み握りしめる。 「大丈夫だよ、ちょっといい気分になるだけだ。そんなにやばいやつじゃない」 「ちょ、そんなにって! ちょっとやばいってこと?」  西の言葉に瓜生は不安になったが西はテーブルに頬杖をついて優しく笑いながら瓜生の顔をじっと見ている。力の抜けた笑顔に、本当にたいした薬じゃないのかと瓜生は気を許しはじめていた。

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