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筧 義松②
「ごゆっくりどうぞ」
緊張気味に立ち上がった義松に、受付の男が微笑んだ。
店の奥へと続くカーテンがシャッと開くと、シンプルなTシャツにショートパンツ姿の、美麗な青年が立っていた。
「はじめまして、アオイです」
にこりと微笑まれ、義松はハッと息を呑む。男に見惚れたのは生まれて初めてだ。
「お部屋、ご案内しますね?」
と、不意に手を取られぎょっとした。
アオイはくすりと笑うと、あからさまに狼狽えている義松の手を引き、部屋の前まで案内してくれた。
「こちらのお部屋でお願いします」
扉を開けて、部屋に入るように促される。
アオイの手が離れていくと、妙に寂しい気持ちになった。
待合室の冷房で義松の体はすっかり冷えてしまい、アオイの手がとても温かかったのだ。
靴を脱いで個室に入るとそこは四畳半ほどの小さな部屋で、ベッドとサイドテブールがあるだけだ。シャワールームの扉が目に入ったが、受付のときにシャワーを浴びる等のそんな説明はなかった。
アオイは義松の脱いだ靴を揃えて自身もスリッパを脱ぐと、ベッドに腰掛けた。そして所在なさげに立ったままの義松にトントンと隣を示し「座って?」と微笑んだ。
「もしかして緊張してる? こういうの、初めて?」
「え、あ、はい……初めて、です」
「ふふっ。こういうお店あんまり来ないの?」
「ないわけではないですけど……よく行くわけじゃ……。それに」
「男は初めて?」
「あ、はい……」
ギシギシと音がしそうなほどぎこちない返事しか返せない義松に、アオイはくすっと笑い「そんな緊張しないでよ?」とそっと肩に触れる。
「俺達、年もたいして変わらなさそうだし? そんなに警戒しないでよ」
さりげない様子で肩に触れた手をそっと滑らせ、腕を伝って再び義松の手を握った。
「俺に触られて嫌じゃない?」
「ぜっ……全然!」
むしろ、すごくドキドキする。
女性的な顔立ちというわけでも、特別華奢なわけでもない。
だが、なんというか、すごく「綺麗」だ。
肌は同じ男とは思えないほどきめ細やかで、ニキビもシミもない。切れ長の二重の目は、ものすごく色っぽい。
「ほんと? よかった。お客さんは何でまた、ここ来たの? ゲイってわけじゃないんでしょ?」
「あー……はい、会社の先輩に、ここ、すすめられて」
「先輩はゲイ?」
「いえ、そういうわけじゃないと思います……風俗全般大好きで、色んなお店行ってるみたいだから」
「へえ。そんな先輩のオススメか。それは光栄に思わなきゃね」
にっこり笑ったアオイは、握ったままの手をにぎにぎとする。それだけのことが、なんだかいやらしく感じてしまう。
「じゃあ、さっそくシよっか? 自分で脱ぐ? 脱がして欲しい? あ、照明もっと暗くしてほしかったら言ってね」
切れ長の目が妖しく細められ、義松はぎくりとした。恐ろしく色っぽい。
「あ、明るさは大丈夫です……」
室内は、一般的な店などと比べると、やや暗めに調整してある。ちょっとムーディーなカフェだとか、レストランくらいの暗さだ。この微妙な照明が、ますます義松をドギマギさせた。
いつまでももじもじしていると、アオイが小首を傾げ義松の顔を覗き込むようにして見た。
「恥ずかしい? 脱がせてあげよっか」
「いや、あ、あ、あの! 大丈夫です、自分で脱ぎます!」
「だから、そんなに緊張しなくってもいいのに」
くすくす笑いながら、ズボンに手をかけた義松を見守っている。自分で脱ぐと言ったはいいが、そう見られると脱ぎにくい。
ひとまずジーンズを脱ぐと、ベッドの下からアオイが出してくれたカゴにザックリ畳んで入れた。
Tシャツに手をかけようとしたところで、はたと気づき「あ、あの……どこまで脱いだらいいですか?」とたずねる。
アオイは「ん?」と、小首を傾げた。
どうやら彼の癖のようだ。
「脱ぎたいとこまでどうぞ。オプションもつけてないし、下だけでもいいよ? 全部脱ぎたかったら脱いでもいいし。ローションとかで汚れちゃう可能性もあるしね、脱いだ方がいいかも」
なるほど、と思ってそのままTシャツも脱いだ。
義松はボクサーパンツ一枚になった。
「いい身体してるね。なにか運動やってた?」
「あ……高校まで、ハンドボールを……」
「今は? なにもしてないの?」
「ジムには入会してますけど、あんまりちゃんと行ってない、です……あとは時々連れとフットサル行くくらい」
「へぇ。充分だよ」
アオイは切れ長の目を細め、義松の身体の感触を確かめるように露わになった上半身に掌をすべらせる。
肩から二の腕、鎖骨から脇腹、脇腹からヘソの下へ……。
下着部分をもったいぶって触っていたかと思えば、突然更に下へと手が伸びて、熱くなりはじめた義松自身を、下着の上からぎゅむ、と掴んだ。
「っ……ぅあ!」
「あ、よかった~、ちょっと勃ってる」
突然の刺激に思わず声を漏らしてしまった義松に、アオイは嬉しそうにニコニコした。
「脱いで興奮しちゃった? それとも身体触られて期待しちゃった?」
下着越しに義松のペニスをやわやわと揉みながら、ふふっと色っぽく笑ったアオイは小首を傾げ、義松の反応を見て楽しんでいる。
真っ赤になった義松は、アオイの顔が見られなくてフイ、と顔を逸らしてしまった。
「ちょっと撫で肩だね。服の上からじゃ分かんないけど。それに……すっごくシャイ」
可愛い、と言ってアオイは微笑んだ。
たしかにアオイはかなりのイケメンだし、きっとすごくモテるんだろうけど、見た目はわりと普通の男の子だ。
だが、雰囲気が独特なのだ、彼は。
何てことのない仕草なのに目を引いて、妙に色っぽい。からかうように目を細め、小首を傾げて顔を覗き込んでくる。そんな何気ない表情や動きが、ものすごく艶っぽく見えて直視できない。
「あ、硬くなってきた」
相変わらずペニスを揉みながら、無邪気に嬉しそうな声をあげる。
「直接触ってもいい?」
そして義松の返事を待たずに、ゴム部分を掴んでぐいと下着をずり下げた。
ぷるんとすっかり勃ち上がった義松のペニスが飛び出すと、アオイは意外そうに「あれ」と言った。
「予想に反してずいぶんと可愛いおちんちん」
その瞬間、義松の顔が羞恥でカァッと赤くなる。
それは昔から義松のコンプレックスだ。
180㎝を超す長身の体に対し、それは驚くほど慎ましやかなサイズをしている。
それはもう、いざセックスをしようとした女の子があからさまにガッカリするサイズ。おまけに皮も剥け切っていない。
それをなんの遠慮もなしに指摘され、義松は恥ずかしいやら悲しいやらで泣きたくなった。
「顔真っ赤。もしかして気にしてた? ごめん、ごめん。でも、ほら見て、俺の手の中にすっぽり収まって可愛いよ?俺に早く可愛がってもらいたいって、ヨダレ垂らしてる。すごくえっち」
しかしそんな義松とは対象的に、アオイは楽しそうにニコニコしながら、ぬくぬくとその綺麗な指先で被っていた皮を脱がせていく。
ピンク色をした亀頭からは既に先走りが溢 れ、てらてらと薄暗い個室の照明に照らされて光っている。
「これならローションいらないね?」
「やっ……言わないでください」
「なんで? 可愛いじゃん、素直にこんなに濡らして」
「ぅ……っ、か、可愛くなんか……」
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