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筧 義松Ⅲ⑥

 コンビニの前で、アオイは若い女にナンパされていたではないか。  自分では女の子にはあまりモテない、なんて言っていたが、そんなことはあるはずがない。アオイはあんなにも魅力的なのだ。  他の客にナンパされていたり……もしかして、女じゃなくて男だったら……? 言わずもがな、アオイは男にモテる。元No.1は伊達じゃない。  もし酔った他の客に絡まれていたら。  無自覚(かどうかは、正直なところ義松は確信が持てないけれど)に垂れ流す蠱惑的なアオイの魅力にアテられたら、普通(ストレート)の男だってひとたまりもないだろう。  もしトイレの個室なんかに連れ込まれて、あんなことや、こんなことをされていたら……。  エルミタージュでは、鍵のない扉一枚隔てたすぐ向こうに、阿部や加藤といったボーイが必ずいる。何か問題があったらコールしたらいい。  しかし今はどうだ。標準以上の体躯をした男なら、酔ったアオイなんてひとたまりもないに違いない――。  そこまで考えが至ってしまうと、いてもたってもいられなくなって、義松は勢いよく立ち上がる。そしてトイレに向かって突進した。  文字通り〝突進〟した義松は、男子トイレから出てきたアオイに、危うくぶつかりそうになった。 「うわっ――って、アンタか。ワリ、トイレ我慢してた? すげー並んでてさ~……」  店の奥にある手洗いは、男女個室が各一つ。  それと男女兼用の多目的トイレが一つあるのみだ。  週末の店内はほとんど満席で、酒を飲ませるこの店なら、トイレが混むのも当然だ。 「いえ、あの……アオイさんが遅いから、ちょっと心配で……」 「心配って? そんな酔ってるように見えたか?」 「いいえ、そういうわけじゃないんですけど……」  ここで自分の妄想のバカバカしさにようやく気付く。  やはり、義松も相当酔っ払っているようだ。 「じゃあ何だよ?」 「ア、アオイさんが……ナンパされてるんじゃないかって……コンビニでもナンパされてたじゃないですか。さっきは女の子だったけど……アオイさんなら、男の人にナンパされててもおかしくないし……あの、俺、心配で」  真っ赤になってしどろもどろに答える義松を、アオイはまじまじと見つめた。あまりにも見つめられ過ぎて、不安になるほどだ。 「アオイさん……?」 「アンタ、可愛いな」 「えっ?」  次の瞬間、襟首を突然掴まれたかと思ったら、義松は空いていた多目的トイレに連れ込まれていた。  その体のどこにそんな力があるのか。義松は乱暴に壁に押し付けられ、扉が閉まった。 「ア、アオイさんっ!?」 「心配って、どんな心配? こんな風に俺が連れ込まれて、エッチなことされてないかって……?」 「そ、それは……あっ……!」  アオイの手が、義松の股間に伸びた。  ゆるゆるといやらしい手つきでさすられ、思わず声を出すと、目の前のアオイがにやにやと笑っている。 「勃ってるぞ? さっきあんなに抜いてやったのに」 「そんなの……! アオイさんに触られたら、そりゃ……」 「ふーん、じゃ俺のせいってこと?」 「そうですよ!」  真っ赤になってむすっと答える義松に、アオイはたまらないと言った様子で声を上げて笑った。 「じゃあ責任とって、また抜いてやるよ」 「えっ? ……あっ、アオイさん!何して……っ!」  アオイは義松のベルトに手をかけ、あっという間にズボンの前を寛がせた。  ギョッとした義松だが、抵抗はできない。 「だから、抜いてやるって。大人しくいい子にしてたら、ちゃんと気持ちよくしてやるから、な?」  いつものように小首を傾げたアオイが、罪なほど可愛い。義松は大人しくこくりと頷くしかない。

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