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葵生川 望⑥
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翌週、望はエルミタージュに出勤した。今日は亘も来ているはずだが、二人とも予約がいっぱいで控え室で顔を合わせることがない。
「阿部ちゃん、予約の前に五分だけちょーだい! 腹減った」
「うん、大丈夫だよ。ご予約の神山様遅れているみたいだからゆっくり食べて〜」
朝から予約がつまりすぎて、昼飯を食べる暇もなかった。もう十四時になろうというのに、望はようやく朝出勤前に買ったメロンパンにありついた。
「ねえ、阿部ちゃん、筧さんって今日予約入ってる」
待合室には今も三人のお客が待っている。望はカーテンの内側から阿部にこっそりと話しかけた。
「うん、神山様のあとに。神山様がCコース延長120分、その後筧様、十七時からCコースで入ってるよ。アオイちゃん、今日はこれで終わりだね」
「ん、サンキュー阿部ちゃん」
それだけで望は少しご機嫌になって、Cコース延長120分という長丁場も乗り越えられるのだ。
もっとも、望の客はほとんど固定客で、時折新規の客が紛れ込んでくるが、新参者の入り込む余地はない。神山も望が学生の頃からの客で、時間の許す限りフルで予約を入れてくれる。こういう、昔からのお客に支えられて、望の生活は成り立っているのだ。
神山を三回抜いてやると、既にクタクタのはずだが不思議とそわそわする。これは楽しみでしょうがないときの、アレだ。神山を見送るためにコールのかける。知らぬ間に阿部から加藤に変わっていたらしく「続きますよ〜」と加藤のお気楽な声が聞こえる。
カーテンの手前で神山にハグをし、満面の笑みで望は彼を見送った。
大急ぎで精子まみれの手を洗い――一応、ティッシュとウェットティッシュで拭いてはあるものの――うがい薬で口をゆすぐ。
いつも上はオーバーサイズのものを選ぶことが多いが、今日の望は黒のぴったりとしたハイネックのセーターだ――それと、いつものショートパンツと。いつものことながらちぐはぐな格好だが、お客が喜ぶのだから仕方あるまい。体のラインがしっかり出るぴったりフィットのハイネックは想像以上に好評だった。
「いらっしゃい~待ってたよ~!」
義松も気に入ってくれるに違いないと意気揚々と出迎えた望だったが、義松の顔を見た瞬間、おや、と思う。いつもであればはにかみながらも嬉しそうに、見えないしっぽを全力でぶんぶん振っている義松だが、今日は目に見えて元気がないのだ。
「アオイさん、こんにちは」と、笑顔は浮かべているものの、おずおずと、といった様子だ。
「どうした? なんか元気ないね?」
「え? そんなことないですよ?」
いつも通り部屋に案内し、望は隣に座ると義松の顔を覗き込むようにしてたずねた。たちまち義松の目が泳ぐ。
嘘がつけないタイプだ。
どうしてこう見え見えの嘘をつくのだろうか。素直で嘘がつけないタイプだろうが、この男は頭が悪いわけではない。下手な嘘がバレていることなど、百も承知だろうに。
「うっそ。大体いつも部屋に入った途端に、ビンビンにしたここ、押し付けてくるじゃん」
「そ、そんな……っ、人を変態みたいに言わないでくださいよ」
「事実だろ」
望がにやっと笑ってやれば、頬を染めた義松がばつが悪そうに身じろぐ。
「んで? 元気のない筧クン、今日はしないの?」
「し、します……っ。シテください……! いつだってアオイさんに触ってほしいし、俺もアオイさんに触りたい……っ!」
勢い込んで言った義松は普段通りのようにも見える。
気のせいだったのだろうか。それとも別の何か――例えば仕事とか?――で気がかりなことでもあるのだろうか。
ひとまず笑みを浮かべた望は、義松の股間に手を伸ばしぎゅっと握る。慎ましやかなサイズのそこはいつも通り、勃起していた。
「なんだ、元気じゃん」
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