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第4話

「過労、と過剰摂取……」 「どういうことか、ちゃんと説明して」  病院のベッドに横になった父さんは俺の知っている父さんより一回りも二回りも小さくなっていた。いつの間にか髪には白が目立つようになっていて過労のせいで目の下にはくっきりとくまがついている。  横になったままで更に首を垂れる父さんに、俺たちは何も言えない。母さんは働き過ぎなことは知っていたらしいが、薬のことは知らなかったらしい。動揺しつつも、医者からの説明を聞くために別室へと消えていった。  これから先どうなるんだろう、さっきまでは父さんを失う恐怖だったのに今はこれから先のことを考えている。自体は少しも良くなってなんかない。じわりじわりと真綿で首を絞められていくのがわかる。それでも、小さく謝り続ける父さんを責める気持ちはない。幸いにも高校卒業は目前だ。  俺も弟も進学が決まっているけれど、問題は医療費と学費。学費、二人分はさすがに、無理だもんな。 「俺働くから。俺はこいつほど優秀じゃないし、やりたいことだってないし働くよ。お前は出来るんだから、その頭活かして偉くなってくれ。生活は、俺が何とかするから」 「すまん……お前にだけ我慢はさせないから、な。また、元気になったら父さんまた働くからな」  夢があるわけじゃない、出来だって良くない。俺が働けばとりあえず生活はなんとかなる。簡単なことだ。すごくシンプル。それで終わると思った。とりあえず未来を弟に託すことで。  医者からの説明を聞き終えた母さんが病室へと戻ってきた。浮かない表情は下を向いているせいではっきりとはわからない。でもよくない話だったことは察せられた。細い腕が俺たちの肩を叩く。名前を呼ばれたと思ったら、へなへなとその場へ崩れ堕ちた。 「御免なさい、大学は二人とも……諦めてちょうだい」 「っ!? どういうこと」  声を荒げたのは弟だった。後ろから嗚咽が聞こえる、きっと父さんだ。どういうことだ、父さんは直らない? 倒れたのが過労なだけで、もっと深刻な病気でも見つかったのか。  母さんは床に崩れ落ちたままゆっくりと話し始める。涙がぼろぼろと床に落ちて水たまりを作っていくのに、俺は少しも聞き逃すまいとそれに気付かないふりをする。 「過労の方はしっかり休めばよくなるし他に病気もないって。……問題は過剰摂取の方。αの薬は安価だけど、飲み合わせが難しいの。運命に逆らうんだから、当然よね。間違った飲み方をすれば体を壊すし、その治療は高額なの」 「そんな……」  αの薬にそんな誓約があっただなんて、知らなかった。それは俺も弟も同じで、聞いたところで少しもぴんと来ない。知っていたのはきっと父さんだけだ。俺の家でαは父さんだけだから。  でもそんな難しい薬をたくさん飲む理由がわからない。父さんは何がしたかったんだ? 過剰摂取なんていいことひとつもないのに。 「……保険もね、使えないの。治すには運命の番に出会うか、辛い治療に耐えるしかないって。……いくら妻でも、βの私じゃだめなのよ、ごめんなさい貴方」 「母さんは悪くない、なあ泣かないでくれ」  置いてけぼりの俺と、ベッドから降りた父さんに抱きしめられて泣き崩れる母さん。その横で立ったままだった弟が、大きく腕を振り上げてベッドへと拳を沈めた。  横に並んでいたサイドチェストが揺れ、がしゃんと大きな音が響いた。 「そもそもっ! なんで過剰摂取なんか……おいおい、もしかして、こいつのせいか?」 「お、俺?!」

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