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第7話

「男の処女なんて面倒なだけ」  いろんなことがあり過ぎて脳みそが正常な判断を下せなくなっていた。  嵐だった。いろんなことがあり過ぎて、心はぐちゃぐちゃのどろどろで疲れ果てていた。だから、一番自分に近い、弟の言うことが正しく聞こえてしまったのだ。昔から弟が可愛過ぎて俺の頭はマヒしていた。寂しかった三年間、俺のせいで家族が壊れていく現実。父さんが倒れたことを聞いて病院で原因を聞くまでの少しの時間、弟が優しくしてくれたから。その短い時間が恋しかった。またあの優しい弟に会うにはどうしたらいい?  怖かった。ものすごく怖かった。  ずっと俺にべったりだったくせに、性がわかると急に避けられた。言葉を交わすこともなかった三年間は確実に俺の心を傷つけ締め上げた。無いもの扱いは怒りを露わにされることよりもずっと辛かった。だから、弟がこんな風に俺に感情を向けることが、三年振りだった。怖いけれど、無いもの扱いよりはずっとマシだと、俺を見てくれた嬉しさが勝ってしまったのだ。  俺の体を差し出せば、またさっきみたいに、優しくしてくれるんじゃないか。そんなバカみたいな考えが頭の中でふくらんでいく。  弟の体が俺に圧し掛かる。  体重をかけて絶対に逃がさないとばかりに腕が押さえつけられた。そこでやっと気づいた俺はバカだ。弟は本気で俺を犯しにかかっている。怒りと嫌悪で優しくする気なんてない顔だった。 「……んっ、な、やめっ! ん゛んーっ、んぐっ……」 「口開けろ、できっこない? 本当にそうかどうか、好きにさせろよ」 「やめ、ろっ……んっ、あ、っぁ……」  上は辛うじてTシャツを着ていたけれど、簡単に裾から手が入る。ただの飾りだと思っていた乳首を指で押し潰されただけなのに甘い痺れが体を走る。長い間誰にも触れられなかった体は、心を無視して触れられることに喜び始めてしまった。ぎゅうっと摘ままれると、痛いのにそれと同時にぞくぞくと、さっきよりも大きな何かが体を走った。息をしようと開けた隙間から舌がにゅるりと入り込む、押し出すことも出来ずにされるがまま舌を嬲られた。  やめろと言う声は音になる前に飲み込まれ、その代わりとばかりに唾液が流し込まれた。どうしていいかわからずに、ごくりと喉を鳴らして飲み込むと、体にぽっぽっと熱が灯っていくのがわかった。  ……くそ、間違えた! 気付いた時には遅かった。Ωの体は影響を受けやすい。  特に発情に関することは顕著で、体液や唾液が与える影響はものすごく大きいと何かで聞いたことがある。  これじゃ兄相手に興奮している弟を笑えない。いや、怒りと欲を間違えてる弟以下じゃないか。  怒っているくせに、味わうような舌使いに抵抗する力が弱まっていく。それすら、きっと俺の体を好きにするためだと思うと胸が苦しいのに体は喜んでしまう。  怒りをぶつけられているのに、快感を拾ってしまう体が恨めしい。

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